テレビ東京の番組で4月に特集されたベンチャー企業が、特殊な人事構成を採用していると話題になった。旅行関連システムを提供する同社は、創業からわずか数年で推定時価総額が100億円を超えており、新進気鋭の成長企業として支持を集めていた。
しかし、番組で紹介された「従業員の7割が業務委託契約」という特殊な雇用形態について、視聴者から指摘が相次いだ。一般的な日本企業であれば、従業員の大部分が正社員となるはずだが、その企業では正社員の比率が少ない。会社の人員構成を検討する際に、正社員と業務委託でそれぞれどのような違いがあるのかを確認し、「従業員の7割が業務委託契約」といった構成に問題があるとすれば、どのような論点が挙げられるかを今回はひも解いていきたい。
(5月15日編集部追記:ITmedia ビジネスオンラインに対し、同社は正社員と業務委託契約を締結した人を合わせて独自に「クルー」と表現しており、そのうち7割が業務委託だと説明している)
企業の立場に立って考えたとき、業務委託契約で労働力を確保する最大のメリットは雇用コストの大幅な削減だろう。これにより、企業は雇用保険や健康保険、各種年金を負担せずに済むだけでなく、ボーナスや有給休暇も付与しなくて良い。また、退職金の積み立てや解雇規制の制限を受けなくなるため、会社の経営状態に応じて柔軟に雇用を調整できる点もメリットとなる。
内部での雇用コストの観点からいえば、給与計算などにかかる総務・人事部門の業務負荷も軽減されるため、経営を軌道にのせていくスタートアップ企業やベンチャー企業にとって特に有効な契約形態であるといえるだろう。
一般に、正社員の雇用コストは額面給与の2倍となる。それは、上記で挙げたトータルのコストだけでなく、社会保険料が本人と会社が“折半”する納付形態であることも大きい。つまり、給与明細に記載されている天引き額に加えて、それと同じ金額を会社が追加で払っている。
これを踏まえると、「月額60万円」の業務委託契約における会社側のコストは、「月給30万〜40万円」の正社員とほぼ同じということになる。つまり、正社員で「月給30万円」の仕事を業務委託契約で「月額40万円」で募集したり、月収30万円の正社員に向けて「月収を10万円上げて40万円にしてあげる」と雇用形態の転換を持ちかけると、企業側は実質的に20万円も得をすることになる。
ちまたでは後者の事例のように、わずか数万円の“賃上げ”と引き換えに、正社員から業務委託契約への転換を勧めるようなケースがまれにあるようだ。しかし、額面が2倍以上上がることがなければ、労働者にとってはデメリットが大きい。中には目先の金額感が一気に上がることで、労働者側が十分に知識をインプットできていないまま業務委託契約を締結してしまうケースも見られる。
確かに、フリーランサーにとっても業務委託契約はデメリットばかりではない。業務委託であれば、仕事の進め方や就労時間を指定されることなく、柔軟に働くことが可能となるし、他の顧客からも仕事を請け負える。
業務委託契約は、大きく2種類に分けられる。仕事の完成によって報酬が支払われる「請負型」と、稼働工数(時給)に応じた報酬が支払われる「準委任型」だ。前者は、成果物が納品されれば稼働時間にかかわらず合意した報酬が支払われる。このため、事前の稼働工数がある程度見積れる案件の場合、報酬と工数の兼ね合いで利益を大きく出すことも可能だ。
一方で、準委任型の契約は、稼働工数あたりの利益を確保するために用いられることが多い。受託開発のように事前に稼働工数を正確に算定することが難しかったり、受託者側で成果の判定をコントロールすることが難しかったりする場合にも適している。
誤解されがちな点として、準委任型の契約ならば時間ごとのシフトを組んだり、特定の日付に出社を命じるといった管理行為を行ってよいと企業が考えるケースが多い。しかし、業務委託契約であるにもかかわらず出社や仕事の進め方に対して指揮・管理を行うと「偽装請負」というれっきとした犯罪になってしまうのだ。
上記で、「業務委託であれば、仕事の進め方や就労時間を指定されることなく、柔軟に働くことが可能となる」と記載したが、もし読者がこの記載に引っかかったとしたら、あなたの会社も「偽装請負」をしてしまっているかもしれない。
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