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「賃上げラッシュ」に乗らない企業はどうなる? 「上げないと損」な4つの理由(3/3 ページ)

» 2023年05月12日 06時00分 公開
[神田靖美ITmedia]
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 3つ目は、離職率が下がることです。これによって企業は離職を恐れずに教育訓練ができ、採用経費や人材仲介会社に払う手数料の節減にもつながります。

 最後に、採用に多くの応募者が集まり、その中から労働者を選べることです。また賃金が高いと、「こんな高賃金会社に私は採用されないだろう」と思っている、能力に自信を持たない労働者のうち何割かは採用されることを最初から諦めて、履歴書を送ってきません。つまり高い賃金はフィルターの役目も果たします。

 賃金を上げない会社は、こうした効率性賃金の利益を享受できません。

高い初任給は社員にとって厳しい面も

 ところで、企業はどうして経験もなく、業界事情にも社内事情にもうとい新卒者を欲しがるのでしょうか。最大の理由は組織に新しい血をもたらすことです。

 新卒者は既存のやり方に関してほとんど知らない一方、新しい考え方や異なる視点を持っています。企業が従来のやり方を変えたい場合、新しい感覚は重要です。従来のやり方の専門家である既存の従業員も必要ですが、定期的に血を入れ替えなければ既存の従業員だけになってしまいます。その結果、問題に気付かないことがあります。

 新卒者に要求されているのは従順さだけでなく、新しい知識や想像力、思考力です。これらが発揮できない新人は企業にとって重要でありません。アメリカの企業には「アップ・オア・アウト」(昇進か退職か)という制度があります。入社後一定期間を経過したら昇進の機会が訪れ、昇進しない人はもとの地位にとどまるのではなく退職するというルールです。こうして従業員をキャリアの初期の段階で振り分けています。

 初任給を上げた会社は、不採算事業や低収益事業をやらせるために新人を採用したわけではないはずです。新しい技術を駆使したり、新事業を始めたりするために採用したはずです。そういう会社ではアップ・オア・アウトルールを採用しても不思議でありません。このように高い初任給には、従業員にとってむしろ厳しい面もあります。

著者紹介:神田靖美

人事評価専門のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表取締役。企業に対してパフォーマンスマネジメントやインセンティブなど、さまざまな評価手法の導入と運用をサポート。執筆活動も精力的に展開し、著書に『スリーステップ式だから、成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版)、『会社の法務・総務・人事のしごと事典』(共著、日本実業出版社)、『賃金事典』(共著、労働調査会)など。Webマガジンや新聞、雑誌に出稿多数。上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。MBA、日本賃金学会会員、埼玉県職業能力開発協会講師。1961年生まれ。趣味は東南アジア旅行。ホテルも予約せず、ボストンバッグ一つ提げてふらっと出掛ける。

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