行列、予約必須…… 「ガチ中華」が続々オープン ここまで注目される理由は?長浜淳之介のトレンドアンテナ(2/6 ページ)

» 2023年05月16日 05時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

エースは味坊集団

 ガチ中華界のエースと目されているのが、東京の神田を本拠とする、味坊集団である。

 1号店の「味坊」が神田駅北口のガード下にオープンしたのは2000年で、もう20年以上のキャリアがある。普段、日本人が目にすることがない、中国の東北地方の料理をコツコツと提供し続けてきた。その結果として、今日のガチ中華のブームが起こった面もある。

味坊の店舗

 中国の東北地方というと、旧満洲のあたりで、遼寧省、吉林省、黒竜江省を指す。日本企業の進出が多く、中国から日本へやって来る留学生の数も多い。日本とは関係の深い地域である。池袋や西川口の新しい中華街でも東北料理をよく見かける。東京都心部にも、ニーズはあった。味坊集団代表の梁宝璋氏は、黒竜江省チチハル市出身。

 味坊の名物は何といっても羊肉料理。羊肉を使った、串焼き、水餃子、ラーメン、クミン風炒め、炭火火鍋などがあり、臭みを感じないほど癖がなく、お酒が進む料理が多い。

羊香味坊。欧米からのインバウンドの観光客にも人気

 その後、上野エリアの湯島に「味坊鉄鍋荘」、御徒町に「羊香味坊」「老酒舗」をオープン。特に16年にオープンした羊香味坊は、味坊集団の名を高めた店。ラム肉の羊肉料理を前面に出し、店内の冷蔵庫から自由に選んで飲める自然派ワインも売り。日本人、欧米からのインバウンドの顧客も多い、夜は予約が必須の繁盛店だ。

老酒舗。北京の酒場をイメージした店

 このように数多くの常連客に支えられ安定した経営を続けてきた味坊集団だったが、新型コロナウイルス感染症の影響は大きかった。都心部から、顧客が住んでいる郊外へと打って出る戦略に転換。

 まず、東京・渋谷の代々木八幡に21年9月、点心の店「宝味八萬」をオープン。本場、広州市出身で点心師歴19年、点心工場長としても5年の勤務経験を持つ、何偉昌氏を招聘し、現場で包んだ25種類の点心を提供している。自然派ワインも用意している。

宝味八萬。点心を中心とした店

 22年4月、東京・目黒の東急東横線「学芸大学駅」のガード下飲食街「学大市場」に、「好香味坊」をオープン。これは、中国の路地裏や住宅街にある「小吃店」をイメージ。小吃店とは、学校帰りの子供が羊肉をおやつ代わりに買い、夜は大人がビール片手にご飯を楽しむといった、屋台と飲食店の中間のような店。好香味坊では店内飲食は13席と同社の店では最小。テークアウトとデリバリーに注力し、羊串、麺類、炒飯、点心などの料理を提供している。

 22年6月には、アフターコロナを見越して、東京・秋葉原に今度は同社では過去最大規模の106席を有する「香福味坊」をオープン。モダンですっきりした内装で、朝食、ランチ、夕食から1人飲み、団体の宴会まで、あらゆる食シーンに対応する集大成の店となっている。

 22年8月、小田急線代々木上原駅の駅ビル「アコルデ代々木上原」に、日本初の中国蒸し料理専門店「蒸籠味坊」をオープン。中華に対してイメージする「脂っぽい、味が濃い、炒め物」は中華のごく一部とし、あっさりしていてヘルシーで旨味が凝縮される蒸し料理に、フォーカスを当てている。中華の概念を一新する、挑戦的な店だ。

蒸籠味坊。蒸し料理にこだわった
蒸籠味坊の蒸し料理

 味坊集団はコロナ禍にあって、逆風を跳ねのける新しいチャレンジで、新たな顧客を獲得した。同社はコロナ前から自社農場で無農薬の野菜を栽培して提供、自然派ワインにこだわるなど、他社とは異なる差別化に注力してきた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.