景表法違反のクレベリンは「やったもん勝ち」だったのか? 売上200億円の大きな代償古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)

» 2023年05月26日 05時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

「やったもん勝ち」とはいえない理由

 課徴金が6億円で、さらにD&O保険の適用が受けられれば、企業や個人にとっては不適切な商品で計上された収益や報酬がそのまま彼らのポケットに入ってしまうことにもつながりかねない。それにより、不正行為を犯してもリスクが低いというモラルハザードが発生する可能性も否定できない。

 しかし、株主代表訴訟や課徴金は、企業の評判やブランドイメージに大きな悪影響を及ぼす点に留意したい。これは直接的な財務的損失以上に重大であり、企業の信頼性やビジネスの継続性を危うくするものである。

 Googleで「大幸薬品」と入力すると、「やばい」「株価 下落」といった不穏なサジェストワードが出るようになっている。これは「ラッパのマーク」で親しまれるまでに、長年多額の広告費や労力をかけて放映されたテレビCMやマーケティング投資を無に帰すものと言っても過言ではない。これらを踏まえれば、クレベリンで上げた利益よりもこれまでのブランドイメージに対する投資や将来の逸失利益の方が大きい結果となったと言って差し支えないだろう。

photo Googleの検索窓に「大幸薬品」と入力すると……

 従って、一時的な利益を得るための不適切な商法は、長期的に見ると企業にとって大きなリスクをもたらすといえる。バックグラウンドの小さいスタートアップや中小企業であったとしても、今の時代にはSNSなどを通じて会社名や代表者の名前などはすぐにデジタルタトゥーとして刻まれてしまう。

 こうした意味では、透明性と誠実さとコーポレートガバナンスの徹底こそが、企業の持続的成長を達成するための必須要素としてより重要度を増しているということになるだろう。

 大幸薬品がこれらの問題を乗り越えて再び消費者の信頼を取り戻すためには、経営の透明性を高め、販売手法を見直し、法令順守体制の強化が求められるだろう。

 具体的には役員が自身の立場を悪用して不正な行為を行わないことが重要で、企業は内部統制体制を整備し、不正や違法行為を未然に防ぐ体制を強化する必要がある。

 この事件は、製薬業界だけでなく、全ての企業にとって重要な教訓となる。法令順守はもちろん、消費者の信頼を得るための誠実な経営が求められる時代だ。訴訟自体は代表取締役個人に対してであるが、大幸薬品のガバナンスも株価下落という形で試されている。大幸薬品関連の今後の動向に注目が集まりそうだ。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.