「内定取り消された」投稿が物議 SNSで社名を晒すとどうなる? 法的リスクは弁護士に聞く(3/3 ページ)

» 2023年06月27日 12時03分 公開
[樋口隆充ITmedia]
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「求職者に誠実に向き合う姿勢が必要」

──今回のように、SNSでメールがさらされるリスクがある。企業は求職者にどのような姿勢で臨むことが必要か。加えて、今回の騒動でメールでの通知にリスクがあると企業が判断した場合、求職者への重要な通知を口頭に切り替える可能性がある。企業に対して求職者側が気を付けるべきこととは。

佐藤氏: 企業側は、法令順守を徹底することが大切。企業には、採用活動のあらゆる場面で、求職者に対して誠実に向き合う姿勢が求められる。

 求職者に対してハラスメントにあたるような言動をしないことはもちろん、求職者の入社に対する期待が高まった段階で、正当な理由なく、採用の見送りをしないことも重要だ。たとえ内定に至っていなくても、あと一歩で内定という段階まで来ると、求職者の入社に対する期待は法的に守られ、それを裏切れば違法となり、企業側に損害賠償責任が認められることもある。やむを得ず採用の見送りをする場合には、しっかりと事情を説明することを推奨する。

photo 就職面接のイメージ(提供:ゲッティイメージズ)

 企業側が法令を守り、道義的にも問題のない対応をしていれば、仮に求職者に対して送ったメールなどがSNSでさらされたとしても、企業にダメージはない。もし、企業イメージを下げるような内容を捏造(ねつぞう)して、さらされるなどした場合は、毅然と法的措置をとればよい。

 企業側は、労働契約を結ぶ際、労働条件をはっきり示す法律上の義務があり、特に重要な条件については口頭ではなく、原則、書面を渡さなければならない。このように法律で定めがある場合には、口頭での通知に切り替えられないこともある。

photo 労働契約を結ぶ際、企業は原則、書面を渡さなければならない(提供:ゲッティイメージズ)

 法律で定めがない事柄についても、重要な事項を口頭での連絡で済ませると、後から「言った、言わない」の水掛け論になるリスクがあり、それは企業にとっても、求職者にとってもデメリットになる。

 従って、企業側も安易に口頭での説明に切り替えるべきではない。求職者側も、口頭での説明だけでは不安があれば、書面に基づいた説明を求めたほうがいい。

 なお、企業から不当な扱いを受けた場合、求職者はSNSでさらすのではなく、大学のキャリアセンターや都道府県労働局などに相談することをおすすめする。

photo 大学のキャリアセンター(出典:獨協大学公式Webサイト)

話を聞いた人

佐藤みのり 弁護士

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慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。ハラスメント問題、コンプライアンス問題、子どもの人権問題などに積極的に取り組み、弁護士として活動する傍ら、大学や大学院で教鞭をとり(慶應義塾大学大学院法務研究科助教、デジタルハリウッド大学非常勤講師)、ニュース番組の取材協力や法律コラム・本の執筆など、幅広く活動。ハラスメントや内部通報制度など、企業向け講演会、研修会の講師も務める。


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