リテール大革命

日本のアパレルが30年間払わなかった「デジタル戦略コスト」の代償河合拓の「アパレル×テック」ジャーナル(1/3 ページ)

» 2023年06月28日 12時00分 公開
[河合拓ITmedia]

連載:河合拓の「アパレル×テック」ジャーナル

「DX」という言葉に踊らされていないだろうか? テクノロジーの急速な進化はアパレル業界全体に不可逆な変化をもたらしている一方で、ややもすればテクノロジーは単なるバズワード化し、本質を欠いた戦略で失敗する企業は後を絶たない。アパレル企業が生き残るには何をすべきで、何をすべきでないのか。本連載では国内外の最新テック事例を“アパレル再生請負人”河合拓の目線で解き明かし、読者の「次の一手」のヒントを提供する。

 日本のアパレル産業におけるDXは、ほぼ失敗の連続だったといっても良い。

 DXの専門家と自称する人たちとは、これまでさまざまな場所で対立してきた。最近ではPLM(Product Lifecycle Management、製品ライフサイクル管理)という、サプライチェーン周りに関するシステムでそういった状況に出くわした。

河合拓の「アパレル×テック」ジャーナル第一回(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 PLMはファーストリテイリング、ワコールやアシックスなどのグローバル企業が導入しているシステムだ。製品開発力や企業競争力を強化する上で、製品ライフサイクル全体を管理し、無駄を省いてリードタイムを短縮化し、ひいては過剰在庫を極小化するPLMは極めて有効な手段だからだ。

 しかし国内の多くのアパレル企業のサプライチェーンは、既得権益とレガシー的な戦略で複雑に絡み合っていて、「PLMを導入すれば全て解決する」というほど簡単な話でもない。これを主導した責任の一端は、私の出身母体である繊維商社にもあると思う。私が新入社員で会社に入った頃、繊維商社の「南下政策」(デジタル化をせず、人件費の安いところへ安いところへ進んでいったこと)に対し強い反感を持っていた。周囲はなんの疑問も持たず工場を解体し、5年ごとに生産拠点を人件費と社会資本コストの安い国へ移転させていった。

 工場を人件費の安い国へと海外を転々とするのでなく、自国のデジタル化で産業を守るべきだ。その方が、国をまたいだサプライチェーンの課題を解決することもたやすいのだ。

日本の一流企業が導入するPLM(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 そうした理由から、私はPLMを正しく理解・導入するために、後述する「デジタルSPA」を提唱してきた。そして、いくつかのベンダーと協力関係を結ぼうとし、世界に誇る日本のものづくりを守ろうとした。

 しかし、直近の「PLMを日本企業にどんどん売ってこい」という外資系ITベンダーの本国の号令で状況は一変した。

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