オーシャンビューなのに2000万円台 単身女性が買う「海の見える家」の正体とは?コロナ禍を経て変わる「住」(3/3 ページ)

» 2023年07月30日 07時00分 公開
[中川寛子ITmedia]
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ホテルのコンバージョンは新しい流れ

 もう1つ、リフォーム代込みの販売価格、自由度のあるリフォームが特に女性から人気が高い。中古物件購入後のリフォームになると、別途ローンを組むとリフォームローンの金利が高い場合がある。だが、最初からリフォーム代も含めた金額が提示されており、それを1本の住宅ローンで賄えれば問題はない。しかも、売却が決まってからのリフォームなので、設備を追加しない場合には予算内である程度、自由にできる。

ocean リフォーム代込みの価格、自由度のあるリフォームが女性から人気(23年5月著者撮影)

 「ホテルのときの状態のまま内見していただき、用意したいくつかのパターンのうち、どれにするかを決めてリフォームを行います。例えば約67平方メートルの部屋の場合、2LDKにも3LDKにもできますし、収納の位置を変えたり、追加したり、色を変えることも可能。自分の好きにできるということでインテリアにこだわりのある人に選ばれています」(大泉氏)

ocean 2LDKタイプの部屋(23年5月著者撮影)
ocean 2LDKタイプの間取り図(同社提供)

 その結果、23年5月時点までに売れた70室中、15室は単身女性が購入。大泉氏によれば、この割合はかなり高いそうだ。都心に比べると比較的安価で自由度が高く、しかも海も見える。すぱっと購入を決断する女性が多いのも特徴だという。

 現在のところ、購入者の中心は40代前半だが、下は20代半ばから70代後半までと年齢層は幅広く、購入者の約7割がキャッシュで購入している。投資目的は現在のところゼロで、4割ほどは多拠点、二拠点のために購入しているそうだ。

 住宅の場合、海の見える部屋は希少で、同物件の近くにあるマンションでも3棟あるうちの1棟しか正面に海を臨むことはできず、その棟の価格だけが突出している。また、一戸建てでは、よほどの高台立地でなければ海を望むのは難しい。そう考えるとホテルからのコンバージョンは面白い住宅になりそうだが、大泉氏は手間がかかると話す。今回は問題はなかったものの、宿泊と住宅では利用する水量、電力などにも差が出るため、そこから変えないといけないケースもあり、一つのノウハウが全てに応用できるわけではないらしい。

ocean ホテルからのコンバージョンは課題も多い(23年5月著者撮影)

 00年代以降、寮、社宅、オフィスを住宅に、店舗や倉庫をオフィスや住宅にとさまざまな流れが出てきている。コロナ以降は住まいと働く場、商いの場が近づく傾向にあり、1棟の中に複数の用途を入れる例も増えている。

 今回のように宿泊施設をオフィスや住宅にコンバージョンする例も出てきており、京都市では一時期、宿泊施設の住宅への転用に助成していたほど。また、最近では収益性が見込めないワンルーム投資に変わり、リゾート物件投資も出始めている。その結果、都心物件ほどではないものの、リゾート物件価格も上昇傾向にある。

 ただ、リゾート地の不動産と一般の不動産には境界があり、身近な不動産会社の多くはリゾート物件を扱いたがらず、今後変化が望まれる。海や山の見える部屋、涼しいリゾート地に住んでみたいと考える人は少なくないが、現時点ではそうした物件を一般ポータルで探すのは難しい。立地、眺望に優れたリゾートホテルの転用が進むと同時に、不動産会社の意識が変わっていくことに期待したい。

著者プロフィール

中川寛子(なかがわ ひろこ/東京情報堂代表)

住まいと街の解説者。(株)京情報堂代表取締役。路線価図で街歩き主宰。

40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。

主な著書に「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版社)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。


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