なぜかというと、弱い法人の中には、経営者と労働者という2つの個人がいる構造になっているからだ。弱い法人にいくらバラマキをしても、経営者やその家族の懐に入るだけで、労働者には還元されない。閉鎖的な人間関係の中で、雇用する側、される側という主従関係のせいで、バラマキが「搾取」されてしまうのだ。
コロナ禍で飲食店にバラまかれた時短協力金などで、経営者は外車を買ったり旅行をしたりしたが、そこで働くパートやアルバイトには「ごめん、休業なんでシフト減らすね」の一言で、休業補償を払わなかった飲食店だらけだった。
弱い法人が潰れても、そこで働く労働者はさっきも説明したように、人手不足の日本ではいくらでも再就職できる。ダメージを受けるのは、経営者とその家族だけだ。補助金やサポートをもらっても事業を大きくすることができなかったということは、経営者としての才能がないワケだから潔く、労働者の立場になって生計を立てればいいだけの話だ。
中小企業経営者は辛い、大変だ、とよく聞くが、大変ならばやめればいい。誰かを雇うということは、時代に合わせてその誰かの賃金を上げていくことだ。それができないくせに、中小企業経営者の座に固執し続ける人が、日本には多すぎることが問題だ。
こういう構造的な問題を解決する方法はただひとつ、弱い法人への生活保護をやめるのだ。倒産したらそれはそれで「従業員たちがもっといい給料を得られるように、会社をたたむなんて英断ですね」と称賛する。そういう社会ムードになれば、日本企業の開業・廃業率も上がって、産業の新陳代謝とイノベーションが起きる。そうなれば、日本でもイーロン・マスクのような経営者があらわれる……かもしれない。
そのための第一歩として、「中小企業の倒産が増えています」というマスコミの扇情的な報道があっても、「バラマキを!」と情緒不安定にならないことが重要なのではないか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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