「中国版リーマンショック」の再来か? 恒大集団破産、日本への影響は不動産バブルの終わり(2/2 ページ)

» 2023年08月30日 08時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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でも、リーマンショック再来にはならない?

 リーマン・ブラザーズの破綻は08年に全世界の金融市場に衝撃をもたらし、それを端緒とした金融危機は世界経済に深刻なダメージをもたらした。負債総額の規模が似ていることで、その苦い思い出がフラッシュバックする読者もいるかもしれない。

恒大集団公式Webサイト

 しかし筆者は、恒大集団が破綻した今回の事例をみても、やはりリーマンショックの再来とはならないだろうという立場を取る。

 その理由として、まずは中国市場の特殊性について触れてみよう。その最大の要素はなんと言っても政府の介入能力だ。中国の経済システムは国家主導の中央集権的なものであり、政府は市場へ強力に介入する力を持っている。従って、中国政府が金融安定や経済の健全性を維持するための措置を取るとの期待も強く、これが世界の株式市場がパニックに陥っていない理由でもある。

 また、リーマンショックの場合は複雑な金融派生商品が米国から世界中に広がっており、そもそものリスク要因が世界中の金融機関に散らばっていた。これも、世界的な金融危機を引き起こした原因の一つである。一方で恒大集団の負債はむしろ、主に中国国内の銀行や投資家に集中しており、グローバルな連鎖リスクはリーマンのときほどではない。

 今年の3月、米国のSVB銀行をはじめとしてさまざまな銀行が相次いで破綻したことは記憶に新しい。このときも「リーマンショックの再来か」という言説が広まった。しかし結局は、これらの銀行の運用資産は国内で閉じているものであったこともあり、グローバルな連鎖には至らなかった。こうした事例を踏まえると、今回も国境を跨いだ大規模なショックに至るとは考えにくい。

 リーマン・ブラザーズの破綻前は、多くの市場参加者が金融危機のリスクを十分に認識していなかった。その一方で、恒大集団の問題は2年以上も前から事前に多くの専門家やメディアによって報じられており、市場はある程度の警戒感を持って動くことができたことも、急激な株価の暴落が足元で発生していない理由であろう。

 恒大集団の負債は、金融商品の評価損という実体のないものではなく、主に不動産や土地といった具体的な資産に基づくため、「リーマン・ブラザーズの負債総額と金額が近い」というのは、全く性質の異なるものを比べているにすぎないのだ。

 08年の危機以降、各国の中央銀行や国際機関は非伝統的な金融政策の導入やバーゼル3などのような金融規制を厳しく敷いてきた。当時と比較して金融市場の安定性と金融機関の盤石性は大幅に向上している。つまり、潰れないように対応する仕組みが整っているのだ。

 単純にリーマンショックと同じ規模の連鎖が発生したとしても、負債総額で見てもリーマン・ブラザーズに見劣りする今回の事例では、既存の国際金融市場が機能不全に陥ることはないといって差し支えないだろう。

 これらの要因を踏まえると、恒大集団の問題がもたらすリスクは決して無視できないものの、かつてのように全世界に広がる金融危機には至らないと考えられる。ただし、今後も状況の変化に注意を払いつつ、例えば中国へのビジネス依存度を見直すといった適切なリスクマネジメント方針を持って備えておくことは重要だ。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手掛ける。Twitterはこちら


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