「中国版リーマンショック」の再来か? 恒大集団破産、日本への影響は不動産バブルの終わり(1/2 ページ)

» 2023年08月30日 08時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

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 中国の大手不動産デベロッパー、恒大集団がついに破綻した。同社に関するテーマは筆者も約2年前にピックアップしており、将来リーマンショック以来の脅威にもなりうるとも指摘していた。

恒大集団が破綻(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 2021年9月には、恒大集団が1億4500万ドル(約212億円)に及ぶ金融商品の補償に伴い、巨額のデフォルト(債務不履行)に陥ったことが話題となっていた。当時の恒大集団の負債総額は33.14兆円で、負債比率は1327%にも及んでいた。

 そして23年、同社の負債総額は48兆円に膨らみ、米国破産法の申請に至った。この負債総額の規模は08年に経営破綻したリーマン・ブラザーズの63兆円に匹敵するレベルであり、世界中が固唾をのんで中国の経済情勢を見守っている状況だ。

 NYダウ平均株価や日経平均株価は1カ月で3%程度のマイナスとなっている。震源地である中国の上海総合指数は1カ月で5%のマイナスとなっており、香港ハンセン指数は7.25%のマイナスと比較的下げ幅が大きいものの、金融ショック的な下落とまでは言いがたく、あくまで市場は冷静に今後の影響を注視している段階であるといえる。

不動産バブルの崩壊、懸念される「負の遺産」

 中国のGDPの成長において、不動産とその関連ビジネスが占める割合は極めて大きい。20年代初頭では、中国のGDPの約3割を不動産関連業界が占めた。今回の恒大集団破綻によって、新しい建物の建設はもちろん、関連する製造業やサービス業まで多岐にわたって影響が波及するかもしれない。

 恒大集団は、中国の最大級の不動産デベロッパーの一つとして知られる。同社は1980年代から2000年代初頭にかけて中国の急激な経済成長の波に乗るかたちで業績を拡大させた。都市化の進展とともに、多くの中国人が都市部に移住したことで、新しい住宅の需要が急増。恒大集団はそんな時代の流れを捉え、リスクをとった大規模な住宅開発を主軸とし、エネルギー、スポーツ、エンターテインメントといったビジネスの多角化にも乗り出していた。

 13年まで続いた中国不動産市場の強気相場に対して、中国政府は経済の過熱を懸念し、不動産バブルの抑制を目的とした政策を導入し始めた。加えて、15年に発生したチャイナショックを機に、恒大集団のような大手デベロッパーの新規開発プロジェクトも減少し始めたのである。

 恒大集団の拡大戦略は、次第に企業の負債を増大させていった。末期には顧客の新規プロジェクトの進行が遅れ、多くの顧客から返金要求が相次ぐ事態となり、21年のデフォルトが決め手となって再起の道のりは事実上断たれていたのだ。

 仮に中国恒大の破綻がうまく収束したとしても、都市部での過剰供給や、今後ゴーストタウンとなっていく地域といった「負の遺産」が今後の中国における経済成長の足かせとなる可能性も見過ごせない。

日本への小さくない影響

 中国の巨大企業である恒大集団の破綻は、直接的・間接的に世界中に影響を与える可能性があるが、その中でも、経済的・地理的な事情から、日本は最も影響を受けやすい国の一つとなるだろう。

 日本は中国に多くの製品を輸出しており、中国経済の健全性が日本の製造業の業績に直結している。恒大集団の問題が中国経済全体の減速を引き起こすと、日本の輸出量や輸出価格が影響を受ける可能性がある。特に、自動車、電子部品、鉄鋼などの主要産業への影響が懸念され、「円安なのに輸出企業の業績が上がらない」という状態に陥りうる。

 恒大集団のデフォルトは、金融市場においてもリスクを増大させる可能性がある。ただでさえ、世界の機関投資家や企業がいわゆるチャイナリスクを避けてインドなどの国に投資マネーや経営資源を移している。さらなるリスク回避の動きが強まれば、中国のみならず、日本の為替や株式指数においてもさらなるマイナスの影響が考えられる。

 中国経済の不安定性が続けば、中国の消費者や富裕層の購買意欲が減退し、日本への観光客数が大幅に減少する可能性がある。これにより、コロナ禍からようやく立ち直りを見せつつある観光地や宿泊施設、飲食店などが再び苦境に陥る可能性がある。

 また、都心の不動産価格についても中国人富裕層を中心とした買いが入りにくくなることで、日本の不動産価格にもマイナスの影響が出てくるかもしれない。

 このように、恒大集団の問題が及ぼすリスクシナリオは多岐にわたる。悲観的に予測すると、日本経済の構造そのものに長期的な打撃となる可能性がある。

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