「ここまで行くと気持ち悪い」 「渋谷をAIカメラ100台で監視」が炎上 なぜ、温度差が生まれたのか?本田雅一の時事想々(3/3 ページ)

» 2023年09月07日 12時00分 公開
[本田雅一ITmedia]
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「個人を認識していない」 しかし「識別はしている」

photo カメラの設置イメージ=Intelligence Designのニュースリリースより

 このケースが単なる「見せ方の問題だけではない」と思うのは、特定人物の識別を異なる場所でも追跡しつつ、さらには通年での履歴まで収集していることだ。

 使われているIDEAというカメラがどの程度、個人の識別を行えているのか? という識別精度に疑問は残るが、彼らの説明が示しているのは「名も知らぬ誰か」に識別トークンを発行してタグを付けている事実だ。なお、このシステムは予定通りならば7月から稼働している。

「識別子『XYZ(男性40代前半)』が週末に識別子『ABC(女性30代前半)』を伴って渋谷を訪れるのは今年x回目。いつも通りのコースで買い物と食事ののち、子どもを迎えるための商品を探しているようだ」

「識別子『XYZ』は平日夜にも頻繁に渋谷を出入りしているが、いつも人流が少ないX町方面の小さな料理店に出入りしている。多くの場合、異なる識別子の20代女性を伴っているが、時折、同年代の男性を伴うことがある。その頻度は……」

 このような分析はしていないというだろう。実際「していない」と筆者は信じている。

 問題だと感じるのは、こうした極めてプライベートな情報を、広いエリア、異なる商業施設にわたって追跡し、日付をまたぐ長期間にわたって追跡可能な“設計にしている”ことだ。

 つまり、一度割り当てられた識別子は捨てられず、再度、渋谷を訪れた場合にマッチングされ、前回の行動履歴と照合していることになる。一体、どのぐらいの長期間、彼らのトークンは更新されないのだろうか。

 日付をまたがって渋谷を訪れた人たちの識別トークンを保持するなら、それはもはや「個人を特定している」ことと変わりはない。もちろん、名前は分からない(音声データもあれば判別できそうだが)。

 しかし、名前は現実社会における個人識別を助ける、一種の識別子でしかない。このシステムの側から見れば、個人識別のために割り当てられたトークンは、実名よりもはるかに生々しい情報をもたらす可能性がある。「いや、そんな可能性はない」ということならば、個人を識別するトークンの扱いについて考えを明確にすべきだ。

 繰り返しになるが、事例として具体的に挙げたストーリーは「そういう使い方をしましょう」という提案であり、システムを開発する目的だ。

 表現や使い方の説明ならば誤解も成立するが、目的、目標、実現できるアプリケーションといったものは、自分たち自身で作り上げたものに他ならない。

 「本田雅一さん。今日は新しいご友人と食事ですね。お相手の身につけているものからすると、お仕事の関係でしょうか。大丈夫、お相手の好みは把握しています。今回のお店はバッチリの選択ですが、○○はお嫌いな方なので気を付けてくださいね。食事の後、さらにお話を伺いたいようならば、ワインがお好きなようなので、お近くのワインバーをご提案させていただきます」

 そんな、少しばかりやりすぎな親切なアシスタントならまだいい。しかし「一人一人に合わせた理想の渋谷」を実現するために、一人一人を識別できるトークンを長期間引き継ぎながら追跡する設計で良いのだろうか。

 彼らは街の最適化ではなく、個人ごとに最適化すると目標を掲げている。すでにデータ取得は始まっているが、個人最適化をオプトアウトする方法は公開されていない。

著者紹介:本田雅一

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ジャーナリスト、コラムニスト。

スマホ、PC、EVなどテック製品、情報セキュリテイと密接に絡む社会問題やネット社会のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジー、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析・執筆。

50歳にして体脂肪率40%オーバーから15%まで落としたまま維持を続ける健康ダイエット成功者でもある。ワタナベエンターテインメント所属。


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