一方、政府が考える施策は外形的な制度改革も少なくない。その1つが冒頭に紹介した、退職所得課税だ。
指針には「勤続20年を境に、勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額される。これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘があり、制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う」と書かれている。退職金の所得控除が長期勤続者ほど優遇されている現行制度が、転職を阻害しているという理屈である。
現行の退職金から控除される退職所得控除額は以下の計算式になる。
確かに勤続20年の人は800万円しか控除されないが、21年目になると、控除額が40万円から70万円に増額される。仮に定年退職金を2000万円とし、現行の基準で大卒入社後38年で定年を迎えるとして計算すると、退職所得控除額は以下の式となり、税金はかからない。
しかし、20年以下と同じ計算式では、退職所得控除額は下記になる。
課税退職所得額は、所得控除額を差し引いた金額の2分の1であり、240万円。これにかかる所得税は次の通り。
これに復興特別所得税を加えると約15万円の税金がかかる。15万円の税金は少ないかもしれないが、管理職経験者の大企業の社員は3000万円を超える退職金をもらう人もおり、税額はもっと増える。また、50歳前後で希望退職者募集という名のリストラに遭い、割増退職金など退職金を多めにもらっても勤務年数が短いために税額は増える。
そもそも、退職所得控除があるから転職するのをやめたという話はあまり聞いたことがない。
転職年齢が伸びたとはいえ、30代前半が主流の日本の転職市場では40代半ば以降の転職者の割合はそれほど多いわけではない。
次回以降は、政府が推進する三位一体改革の「リスキリングに支援」「職務給の導入」「労働移動の円滑化」の政策について、問題点を含めて検証したい。
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