猛暑で大活躍のネッククーラー ずっと涼しい秘密は「とある素材」に隠されていた(2/3 ページ)

» 2023年09月14日 08時00分 公開
[吉見朋子ITmedia]

大流行のきっかけは?

 実はネッククーラーに採用される前から、PCMは気付かないうちに私たちの生活シーンに浸透していた。今から3年前、三木理研は大手量販店が展開する冷感マットレスに「マイクロカプセル」という小さな密閉容器にPCMを閉じ込めるという提案をした。

 「通常のPCMは固まると板のようにカチカチになってしまいます。でも、私たちが開発したマイクロカプセルは数マイクロメートル〜数百マイクロメートル と非常に粒度が細かいため、布団のように柔らかい質感を出せます」(三木氏)

 この冷感マットレスに横たわると小さなカプセルのPCMが溶けつつ体温を奪うので、ヒンヤリした感触を得られるというものだ。また寝返りをうつ度に溶けたPCMが室温で凍り(凝固)、暑い夜でもヒンヤリ感が続くというアイデア商品である。

 年々、熱帯夜が増える中、ヒンヤリ感で差別化を図りたい量販店のニーズとマイクロカプセルが合致し、念願の採用につながった。

PCMを活用した冷感マットレスの例。寝返りを打つたびにヒンヤリ感が続く

コロナ禍に大活躍したワケとは

 もう一つの追い風となったのは、新型コロナウイルスによるパンデミックである。コロナワクチンを冷蔵したまま接種会場に運ぶ際、一般的な保冷材では温度が低すぎてワクチンが劣化、または死滅してしまう恐れがあった。

 そこでワクチン輸送に最適な2〜8度を保持できるPCM保冷材が大活躍したのだ。このワクチン輸送用保冷バッグをつくっている国内の最大手は、創業1932年のスギヤマゲンという中小企業だ。感染対策関連商品で知られる同社はガラス投薬瓶や医療器にルーツをもち、現在は医療・バイオ研究向けの保冷・保温容器を開発している。

 最近、急にPCMが私たちの目に触れるようになったのは、こうした中小メーカーが積み重ねた工夫や努力の功績が大きいといえるだろう。その成果がネッククーラーのアイデアにつながったとようだ。

ファイザー製ワクチン冷蔵輸送用保冷バッグ(写真:スギヤマゲン提供)

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