9月に入ったにもかかわらず、残暑が厳しい日々が続く。夏に引き続き活躍しているのが、首に引っ掛けるリング状のネッククーラーだ。去年登場した途端、一気に人気に火がつき、子どもからシニアまで広く愛用されるようになった。
人気の秘密は人肌にちょうどいい冷却効果が続くところ。従来の保冷材とは異なり、冷たすぎたりすぐに溶けてしまったりという欠点がない。詳しく調べてみたところ、この新しい冷却グッズは「PCM」という素材を使っているらしい。ネットではPCMは「アメリカ航空宇宙局(NASA)が開発した」という説もある。
一体、PCMとは何だろうか。また、なぜ最近になって急に広まったのだろうか。本記事では謎の素材を探るとともに、流行の理由も解き明かしてみた。
今回、話を聞いたのは和歌山県和歌山市にある三木理研工業という化学メーカーである。PCMを生かしたさまざまな商品の提案や開発を行っており、20年以上の歴史を持つ。話を聞いた専務取締役の三木保人氏は「日本潜熱蓄熱建材協会」の会長も務めるなど、大手企業や大学とともにPCMの普及と応用を目指している人物だ。
そもそもPCMとはいったい何なのか。三木氏に聞くと「水のようなもの」だという意外な答えが返ってきた。
「例えば水は温めたり、冷やしたりすることによって固体(氷)から液体(水)と形状(相)が変わりますよね。これを『相変化』と呼びますが、PCMとは相変化材料(Phase Change Material)の頭文字をとったものです」
PCMとは特別な物質を指すのではなく、ある相から他の相に変化する物質を広く指す言葉だった。では、実際にネッククーラーなど冷却グッズに使われているPCMの中身は何かというと、ロウソクと同じパラフィン(ろうそくの原料)だ。
パラフィンは従来の保冷材と異なり、人が快適と感じる25度あたりをキープできる。その理由について三木氏は「化学の不思議な特性を利用している」と説明する。
「パラフィンには溶解時に『物質そのものの温度は変わらない』という特性があります。この現象は水も同じです。クールネックリングは、PCM特有の原理を応用した冷却グッズです」(三木氏)
PCMは固体から液体へ変化する間でも温度を保ち続けられるため、PCM素材の冷却グッズも人肌にちょうどいい冷却効果を持続できるというわけだ。
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