しかし今では、月はたまごのみならず、丸餅やハッシュドポテトなど、たまごから逸脱した丸いモノ、黄色いモノというくくりで、月に見立てた商品も販売されている。消費者側はそれらからも月を連想するように、マーケットが先導する形で「月見商品」の消費文化が広がりを見せている。
「さすがにこれは月とはいえないだろう」という商品があるのも確かだが、月に見えるかというよりも、「これは月である」というコンテクストに消費者が乗っかってくれることが前提になっている。この類の商品は、消費者側の遊び心や、企業側からの「これは月だからね」というメッセージのもと、作られた風物詩から季節を感じとる──ある種のエンターテインメントに対するノリによって成立しているわけだ。
何より、昔よりも季節の変わり目があいまいになっているからこそ、消費者は広告や商品によって、季節の変化を感じられる。残暑ともいえない暑さが続く9月でも「もう秋なんだ……」と感じられるのは、ダウンジャケットやコートがディスプレイされていたり、コンビニおでんや鍋の素などが売られていたりと、マーケットが意図的に四季を区切りメリハリを付けているからだ。
自然の摂理とは大きくギャップの生まれた、「9月になったら秋が始まる」という消費者のイメージをマーケットが補完しているともいえるかもしれない。すごくマーケット主導な気もするが、消費を楽しむという肯定的な側面からいえば、2月にチョコレートを意識してしまうのと同様に、消費者が月見というマーケットのノリを受け入れることで、日々の消費の中のちょっとした楽しみにつながっているわけだ。
他の国よりは四季がはっきりしていることもあり、日本人は食べ物の旬によって季節を感じとってきた。旬の食材を使用した食事が行事食と呼ばれることもある。多くの人が秋に満月を見ることをお月見と認識しているが、実際には旧暦8月(現9月中旬〜10月上旬)の「十五夜」、9月(現10月)の「十三夜」、10月(現11月上旬)の「十日夜」の3回がお月見をする日と決まっている。それぞれの日で行事食が異なり、十五夜では芋、十三夜では団子、栗や豆が食べられたという。「月見そば」や「月見うどん」も近代以降、行事食になったといえるだろう。
一方、昔のアニメやドラマで見たような、縁側で月やすすきを見ながら団子を食べたり、月見酒を嗜むといった文化は過去のものになりつつある。現在そのような“the 月見”が一般家庭で広く行われていることすら疑わしい。それこそ今では、CMの影響か、マクドナルドの店舗内から月見バーガーを頬張りながら月を眺める方が、せかせか時間が流れる現代社会ではよほどイメージしやすい。クリスマスに食べるケンタッキーのフライドチキンがそうであるように、月見バーガーも広義の行事食といえるのかもしれない。
誕生から32年。マクドナルドが月見のマーケットを開拓し、月見=秋限定というイメージが構築され、昨今では多くのファストフードチェーンが参入している。今年は大手チェーン8社が月見関連商品を販売している。
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