日本のタクシーは本当に大丈夫なのか 海外との“差”が広がるスピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2023年09月19日 11時23分 公開
[窪田順生ITmedia]

航空業界の画期的なサービス

 「ライドシェアが始まったら価格競争に敗れてタクシー会社は倒産だ」という意見もあろうが、ライドシェアが既に普及しているような国でも、ちゃんとタクシーは生き残っている。そもそも素人ドライバーが操る白タクに客を奪われてしまうようタクシー会社は、ライドシェアが導入されなくても、遅かれ早かれ潰れるはずだ。

 もっと言ってしまうと、「安さ」しか強みのないタクシー会社に改革を促す効果もある。

 公共交通機関が運行の安全を確保していくには「高価格帯」の設置が必要不可欠だ。ライドシェアという「安さ」を訴求したサービスが生まれたら、タクシー会社は生き残るためにそちらにかじを切らざるを得ない。

 「なんのこっちゃ?」という人は、航空業界を思い浮かべていただきたい。

 現在、飛行機は、自動車などに比べてはるかに安全な乗り物という評価が定着しているが、実は1970年代初頭まではかなり危なかった。航空会社の経営が不安定だったからだ。し烈な「価格競争」から格安チケットが氾濫したことで利益がでずに、現場の社員に満足いく給料が払えず、結果、整備不良や点検ミスなどが起きるという「貧すれば鈍する」というべき事故があった。

 しかし、70年代後半にある画期的システムが開発される。「ビジネスクラス」だ。

(写真提供:ゲッティイメージズ)
航空会社は「高価格帯」戦略によって、収益が改善した(写真提供:ゲッティイメージズ)

 誰もが安い運賃で搭乗できるエコノミーではなく、会社の経費が使えるビジネスマンや富裕層を対象に、高い運賃と引き換えに広くて快適なシートや手厚いサービスを提供したのである。

 このように収益を生む高価格帯が広まったことで、航空会社の経営は安定した。それにともなって、設備や人材に投資する余裕ができるので安全性があがっていく。もちろん、航空機の安全性は技術の進歩によるところが大きいが、ヒューマンエラーという部分では、この高価格帯ができたことによる収益性の改善も無関係ではないだろう。

 例えば、日本が誇る新幹線を思い浮かべてみるといいだろう。新幹線の安全性は、日本の鉄道会社の技術もさることながら、正確で安全な運行を指揮する職員や、整備や点検をする作業員の献身的な努力のたまものであることに異論を挟む者はいないだろう。

 彼らを支えるのは「賃金」だ。もちろん「使命感」もあるが、家族を養い不安なく人生を送れるだけの待遇がなければ、モチベーションも下がってミスも増える。

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