日本のタクシーは本当に大丈夫なのか 海外との“差”が広がるスピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2023年09月19日 11時23分 公開
[窪田順生ITmedia]

タクシー以外の付加価値を高めていく

 では、こういう構造の中で、もし新幹線が「安さ」を訴求するようになったらどうか。賃金がいつまでも上がらず生活が苦しい庶民のために、運賃を大幅に下げて、グリーン席や指定席を廃止してそこもすべて「安い運賃で乗れる自由席」として開放をするのだ。国民は「庶民の味方だ!」と大喝采だろうが、JRの収益は急激に悪化するだろう。

 まず、運行本数を減らさなくてはいけない。職員や従業員の賃金も下げざるを得ないので、いくら高い職業倫理を持つ人々でもモチベーションが低下する。「やってられない」と優秀な人が辞めていく。現場の集中力も落ちるので、整備不良や点検ミスが続発して最悪、あってはならないような事故が起きるかもしれない。

タクシードライバーの事故件数(出典:全国ハイヤータクシー連合会)

 つまり、公共の利益を優先して運賃の安さをキープすることは、国民に優しいように見えるが、実は長い目で見ると、公共の安全を大きく損ねている。

 その代表が実はタクシーだ。この公共交通機関は70年代の航空会社と同じような「価格競争」が繰り広げられ、結果、格安運賃が氾濫して利益がでない体質に陥っている。

 今年5月に需給に応じて上下5割で料金設定できる「ダイナミックプライシング」が導入されたが、タクシー会社は基本的に運輸局が地域ごとに決めた料金体系に固定されている。つまり、ビジネスクラスのような高価格帯がつくれないのだ。

 そこでライドシェアの出番だ。「安かろう悪かろうの低価格サービス」ができることで、既存のタクシーはおのずと価値が押し上げられる。その勢いに乗って、タクシー会社はかつての航空会社のようなビジネスクラス戦略を進めるのだ。

 例えば、乗車中にスナックや飲料などを楽しめるようにする。最新のマッサージ機や美容器具が利用できるなど、移動だけではない「乗車体験」を提供する。現在、デジタルサイネージでは広告映像がメインだが、タクシー限定のドラマやアニメなどコンテンツを充実させる。

 タクシードライバーも「ただ言われた通りに運転する人」から「プロドライバー」として稼ぐようにしていく。例えば、プロフィールを公開して、グルメが得意とか、心霊スポットに詳しいとかアピールポイントをつくらせて、好きなドライバーを「指名乗り」できるようにする。1日一緒に過ごすガイド兼運転手のような扱いにして、タクシー以外の付加価値を高めていくのだ。

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