年末年始、なぜ「のぞみ」を全席指定にするのか 増収より大切な意味杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)

» 2023年09月23日 08時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

値上げではなく「定時性」を重視

 まず定時性について考えると、これは駅で観察すれば分かる。プラットホームを見ていると、指定席の乗降はいつもスムーズだ。しかし混雑時、自由席の乗降には時間がかかる。

 東京駅で満員になると、品川駅、新横浜駅は座れずデッキに立つ人がいる。座っている人の横に立つくらいならデッキの方がいい。トイレも近いし。ということで、デッキは満員。入口が狭くなるから客室に移動する時間が増える。駅員さんも「お急ぎの方は指定席車両から乗って自由席に移動してください」と案内するくらいだ。

 一方、JR東海は急増する乗客数に応じるため、「のぞみ」を増発してきた。20年春のダイヤ改正で、ついに「のぞみ」は1時間に12本も運行可能になった。これは車両の性能、運転士の技量とサポートする技術、車掌など乗務員の手配、保線、列車指令、駅員の配置など、あらゆる人員を総動員して達成した。まさに「全社一丸」だ。

 「のぞみ12本ダイヤ」では5分に1本の割合で「のぞみ」が走り、「ひかり」2本、「こだま」2本も通常通り走る。つまり1時間に16本だ。単純計算で3分45秒間隔になる。のぞみのあとに臨時のぞみが続行し、途中でひかり、こだまを追い越していく。まるで大手私鉄の通勤時間帯のような緻密なダイヤだ。オーケストラがひとつの楽曲を乱れずに演奏するような、大変な努力の賜物である。

 こうなると、1本の列車の発車時刻が遅れただけで、その遅れが後続の列車に波及する。列車が遅れるとプラットホームに自由席利用者の滞留が増えて、その乗降にも時間がかかり……という連鎖だ。ダイヤを復旧させるために、最悪の場合は列車を何本か運休する必要も出てくる。だからお客様には速やかに乗降してもらいたい。オーケストラが「のぞみ12本ダイヤ」を演奏するためには、「お客様」という演奏者の協力が不可欠だ。観客でいてもらっては困る。「のぞみ12本ダイヤ」に必要な最後のピースは「プロのお客様」だ。

 もちろん、客の立場からすれば「プロになれ」といわれても困る。聞き分けのいい大人ばかりではない。子どもだっている。ではどうするか。JR東海の要望は「整然と、スムーズに乗降していただきたい」だ。ならば、乗降時間に難のある自由席車両を廃止して、「指定席のお客様」になっていただく。これが当面の解決策になる。たとえそれが減収になっても、後続の列車が運休、あるいは2時間以上遅れて特急料金の払い戻しになればもっと大きな損失になる。「のぞみ全車指定席」は「リスク管理」である。

 一方で、「ひかり」「こだま」の自由席は維持する。自由席利用者がこちらに集中すればやっぱり遅延問題になる。しかし、比較的に空いている「ひかり」「こだま」に誘導しようという意味があるのかもしれない。

 私の懸念は、全車指定席であっても「自由席特急券で指定席車両のデッキに乗車できる」というルールは残っていることだ。私が体験した「大雨運休後の東海道新幹線」でも、「全車自由席の臨時のぞみ」を増発したにもかかわらず混乱が続いた。定期列車のぞみまで大幅に遅れた。その理由は自由席車両の乗降に時間がかかったからだ。9月の大雨運休でも同様だろう。制度変更は長い間に慎重に検討していたはずだ。しかし、今年に何度も起きた大雨の混乱が決定打になったことは想像に難くない。

 全車指定席のぞみであっても、デッキが混雑するかもしれない。乗車整理をどうするか、これがJR3社の課題だ。鋭意検討中といったところか。近日中に解決策を示す「新たなお知らせ」があるかもしれない。

「のぞみ12本ダイヤ」の東京駅発車パターン(出典:JR東海、2020年3月ダイヤ改正について
23年6月3日、午前運休の影響で大勢の乗客が滞留した新横浜駅。自由席車両への乗客集中が列車の遅延をまねき、混乱終息を遅らせていた(筆者撮影)

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