25年も苦戦していたウイスキーが、なぜ人気なのか “暗黒時代”を変えた、ある商品サントリーのウイスキーが100周年(3/5 ページ)

» 2023年11月01日 08時00分 公開
[鬼頭勇大ITmedia]

V字回復の立役者は「ハイボール」

 1983年のピーク時から、四半世紀にわたって右肩下がりが続いた国内ウイスキー市場。2007年には、販売量ベースで1983年から6分の1ほどまで落ち込んだ。転機を迎えたのは08年だ。サントリーが「『角ハイボール』復活プロジェクト」を始めた。

四半世紀にわたり市場はダウントレンドが続いた(提供:サントリー)

 同社は、これまでの調査でウイスキーが飲まれなくなった理由の一つを「若者離れ」と分析。他のアルコール飲料と比較して価格が高いだけでなく、これまでの普及の歴史から「ウイスキーは中高年のもの」というイメージもあった。さらに、低アルコール飲料の台頭もあるなど、いくつも課題が山積していた

 そこで、アルコール度数が低くでき、食中酒としても楽しめるウイスキーの形として「ハイボール」に着目。売り出すに当たり、一過性のブームに終わらせず、しっかりと社会に定着させようという狙いもあった。

 普及でポイントになったのが、サントリーが重視している「飲用時の品質」だ。飲食店で楽しんだものがおいしければ、自宅などでも消費者が楽しむようになるという考え方で、まず飲食店へのアプローチを進めた。営業担当者が店舗へ行き、提供方法を細かくレクチャーしていったという。

20年には、定めた基準を満たした店舗を認定する制度「頂店ハイボール」も導入した(出所:サントリー公式Webサイト)

 具体的には「ジョッキいっぱいに氷を入れる」「ウイスキー1に対して、ソーダ4を入れる」「冷やしたソーダは静かに注ぐ」といった方法を共有。また、上述したような低アルコール飲料の台頭を意識し、従来のハイボールと比較してアルコール度数を低めになるように設計した。理想的な比率でハイボールを注げる業務用サーバーの提供や、ビールやチューハイのように気軽にハイボールを飲んでもらえるように「角ジョッキ」の開発なども行った。

 飲用時の品質を重視した戦略により、ハイボール人気は拡大を見せる。同社によると、サントリーのハイボールを扱っていた飲食店は08年末時点で1万5000店舗ほどだったところ、09年には約6万店に拡大。その後も成長を見せている。

 以降も「トリス」をハイボールで楽しむ提案や、「角ハイボール缶」の販売などを矢継ぎ早に展開することで、ハイボール人気を一過性のブームにとどめずに定着させた。執行役員・ウイスキー事業部長の秋山信之氏は「食中酒として定着し、今ではハイボールが当たり前になった」と胸を張る。

 ハイボール人気がけん引する形でウイスキーも息を吹き返した。日本洋酒酒造組合がメーカーの製造場から出荷した酒類数量をまとめている「洋酒移出数量調査表」によると、09年のウイスキー出荷量は約6100万リットル。前年比110.6%と2ケタ成長を見せた。その後も右肩上がりで推移し、22年は約1億2600万リットルまで伸びている。

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