2023年5月に企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」(以下「会計基準案」とする)および企業会計基準適用指針公開草案第73号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下「適用指針案」とし、これらをまとめて以下「新リース会計基準案」とする)が公表されました。
その内容はというと、国際的な会計基準との整合性を図るため、オペレーティング・リースを含む借手の全てのリースについて資産および負債をオンバランスさせることが提案されています。今回は、この新リース会計基準案の概要を中心に解説します。
(注)最終基準化にあたり変更がある可能性にご留意ください。また、文中意見にかかる部分は筆者の私見である旨をあらかじめお断りします。
新リース会計基準案は、16年1月公表の国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」(以下「IFRS第16号」とする)と同様に、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、借手の全てのリースについて使用権資産およびリース負債を計上し、使用権資産にかかる減価償却費およびリース負債にかかる利息相当額を計上する単一の会計処理モデルを採用しています(<図表1>参照)。
そして借手の費用配分の方法については、IFRS第16号との整合性を図り、IFRSを任意適用して連結財務諸表を作成している企業がIFRS第16号の定めを個別財務諸表に用いても、基本的に修正が不要となる会計基準とすることを基本的な方針としています。
一方、IFRS第16号の全ての定めを取り入れるのではなく、主要な定めの内容のみを取り入れることにより、簡素で利便性が高いものとなっています。その上で、国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いや経過的な措置を定めるなど、実務に一定の配慮がなされています。
新リース会計基準案は、公表から2年程度経過した年の4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することが提案されています。リースの識別をはじめ、これまでとは異なる実務を求めることから、準備期間が考慮されたためです。また、公表後最初に到来する年の4月1日以後開始する事業年度の期首から早期適用を可能とすることが提案されています。
仮に24年3月までに新リース会計基準が最終化された場合には、3月決算であれば、26年4月1日以後開始する事業年度から適用開始となる見込みです。
基本的には全ての資産のリースに適用されますが、(1)公共施設等運営権の取得や(2)企業会計基準第 29 号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」とする)の範囲に含まれる貸手の知的財産のライセンスの供与については適用対象外とされており、また(3)適用しないことを選択可能な無形固定資産のリースといった例外があります。(詳細は<図表3>参照)。
一部の例外(短期リースや少額リース)を除き、借手は全てのリースについて使用権資産およびリース負債を計上することになります。現行は賃貸借処理をしている借手のオペレーディング・リース処理はなくなるため、貸借対照表においては資産および負債が増加することになります(<図表4>参照)。
また、今までオペレーティング・リースは支払賃借料などの勘定科目として定額で費用処理されていましたが、従来のファイナンス・リースと同様に減価償却費と支払利息が計上されることになり、利息法で計算されることから費用の発生が前加重になります(<図表5>参照)。
そして、販売費および一般管理費に計上されていた費用が、販売費および一般管理費の減価償却費と、営業外費用の支払利息に組み替えられることになるため、営業損益にも影響があります。
貸手の会計処理については、次の点を除き、基本的に現行の企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下「企業会計基準第13号」という。)の定めを維持することが提案されています。
その他、新リース会計基準案の主なポイントは以下の通りです。
会計処理
表示および開示
リースの定義は、借手が貸借対照表に計上する資産および負債の範囲を決定するものです。国際的な会計基準との整合性を確保するためには、リースの定義に関する定めについて、IFRS第16号との整合性を確保する必要があると考えられます。
このため、新リース会計基準案では、リースの定義に関する定めについて、IFRS第16号の定めと整合させて、借手と貸手の両方に適用することが提案されています。
具体的には「リース」について、「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義することが提案されています。なお、この場合の「契約」には、書面のみでなく口頭や取引慣行なども含まれることになります。
契約の締結時に、その契約にリースが含まれるか否かを判断(リースの識別)することになります。リースの識別に関する定めは企業会計基準第13号では置かれていなかった定めであり、新リース会計基準案の適用によって、これまで会計処理されていなかった契約に、リースが含まれると判断される場合があり得ることに注意する必要があると考えられます。
会計基準案では、リースの識別に関する定めについて、基本的にIFRS第16号の定めと整合させて、借手と貸手の両方に適用することが提案されています。具体的には、主に次の定めを置くことが提案されています。
平川浩光
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士
品質管理本部における会計処理及び開示に関する相談業務、研修・セミナー講師を含む会計に関する法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、上場会社の監査業務に従事。
主な著書として『そこが知りたい!「のれん」の会計実務』(共著/中央経済社)、『IPOをやさしく解説!上場準備ガイドブック』(共著/同文館出版)のほか、雑誌への寄稿を行っている。
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