「NTT法廃止議論」はどこへ向かうのか NTTと携帯3社、それぞれの主張(2/2 ページ)

» 2023年11月08日 08時00分 公開
[房野麻子ITmedia]
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 1つ目の項目は、NTTグループとその他の事業者との「公正競争の確保」だ。公正競争は電気通信事業法とNTT法の両輪で機能すると3社は主張。NTT法を廃止すると、NTT持株会社とNTT東西の責務や制約が撤廃され、NTTグループの一体化がさらに進み、公正な競争環境が阻害されて料金が高止まりしたり、サービスの高度化・多様化を妨げたりする懸念があるとしている。

 3社は、NTT東西が持つ光ファイバー網も使って自社のネットワークを運営している。NTTの一体化が進めば、接続に不利な条件が課されるかもしれない。例えば接続料が上がった場合、3社にとってはコストが上がるが、NTTは一体化されればプラスマイナスゼロだ。

 NTTの島田社長は「NTT東西とNTTドコモを統合する考えはない」と主張しているが、法律に書かれていないという理由でドコモが完全子会社化されたことに、3社はかなりの不信感を抱いている。ソフトバンクの宮川潤一社長は「NTTはドコモの完全子会社化をしれっとやってしまった」と懸念を示す。

 楽天モバイルの鈴木和洋共同CEOも「民間企業は経済合理性第一で動く。いろいろ約束していることが反故にされるリスクがある」と話している。

 こうした意見に対し、NTTの島田社長は「電気通信事業法の中にも禁止行為規制がある。乱暴な言い方だが、そこに『合併してはいけない』と書き足せばいい。事業法の中にいろいろな規定を作っていくことはできる。海外は事業法で規定している。なぜ日本はできないのか教えてほしい」と反論している。

photo 携帯3社が懸念する3つのポイント(説明会資料より)

 2つ目の項目は「ユニバーサルサービスの維持」だ。NTTが抱える全国6000万ユーザーへの提供義務を維持するべきだと3社は主張している。NTTは、ユニバーサルサービス義務については電気通信事業法に統合すべきと主張しているが、事業法においてNTT東西に課されている義務はなく、不採算のエリアでは撤退してしまう可能性があり、国民生活に大きな影響が出ると3社は懸念する。

 3つめは「外資規制」だ。「特別な資産」を有するNTTを守るには、NTT法による外資規制が最も有効と3社は主張している。「特別な資産」とは、30年の年月、25兆円もの費用をかけて構築された局舎や通信回線敷設トンネル、通信回線パイプライン、電柱といった通信基盤のこと。土地は東京ドーム約370個分あり、局舎は約7000ビル、通信回線パイプラインは地球を15周半、光ファイバーは地球から月までの距離の約3倍あるという。これは競争事業者が構築し得ない規模で、通信の黎明期から築き上げた国民の財産ともいえる。

photo NTTが持つ「特別な資産」。現在の貨幣価値で約40兆円になると携帯3社は試算している(説明会資料より)

 これらを保持するNTTを守るには、NTT法による外資規制が最も有効だというのが3社の考えだ。

 ソフトバンクは、NTT法を廃止してNTTが特殊法人から普通の民間企業になることを望むなら、この特別な資産を国に返還し、国が監督責任を持つべきという考えを示している。ただし、そうするには長い時間がかかり、必ずしもそれを望んでいない企業もある。ならば、NTT法を一部改正し、維持することで、引き続きNTTが特別な資産を有する特殊法人であり続けることが妥当だとソフトバンクは主張している。

自民党PTは11月中に提言を発表予定

 かつて2020年11月、通信事業者各社がドコモの完全子会社化に対する要望書を総務大臣に提出した際には、28社が意見申出書を提出し、9社が趣旨に賛同したものの、しっかりした議論の場もなく完全子会社化が行われた。

 今回、ケーブルテレビ(CATV)、インターネットサービスプロバイダー(ISP)、電力系などの電気通信事業者や地方自治体などが連名で、NTT法の廃止に反対する要望書を自民党と総務大臣に提出している。

 要望書は180の企業・団体が名を連ねており、危機感の大きさが伝わってくる。自民党のプロジェクトチームは11月をめどに提言を取りまとめ、政府に申し入れをする予定だが、これだけ多くの事業者が慎重な議論を望んでいるのを無視することはできないだろう。

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