自主的な開示体制に規律性を設けた結果、規制主導型へと転換することとなりました。
2015年にG20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)を設立しました。TCFDは開示枠組の基準として、持続可能な開発のための世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development )と世界資源研究所(World Resources Institute)によって設立されたGHGプロトコル(炭素会計の基準)を取り入れました。
このGHGプロトコルは広く普及していたことから、TCFDの提言におけるGHG排出量の算定方法の標準化に大きく寄与しました。17年に公表されたTCFD提言は、22年の時点で99カ国・3800社以上の企業が報告の指針として活用しており、日本国内では東京証券取引所のプライム上場企業を中心に同提言に基づく情報開示を実施しています。このように、TCFD提言は気候関連の財務情報開示においても新たな基盤を確立するものとなりました。
多くの企業・団体がTCFDの開示枠組を採用し開示基準の一元化が進んだことで、基準設定主体同士が協力して市場ニーズへの対応を開始し、市場の要望への効率的な対応に向けて規制当局が取り組みを進めました。こうした団体間の連携や当局による規制化の国際的な促進もあり、国際会計基準(IFRS)財団は21年11月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立しました。ISSBは、投資家の情報ニーズを満たす質の高いサステナビリティ開示基準の設定をミッションに掲げています。
23年の夏、ISSBはサステナビリティ情報開示に関する2つの基準を公表しました。一つは、サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項を定めたもの(IFRS S1)、もう一つは気候関連情報開示に関する基準の概要を示したもの(IFRS S2)です。
いずれの基準もTCFDの提言に基づき、これらの推奨事項の多くを強化(義務化)することで策定されました。また、気候変動・サステナビリティ関連の財務情報が、投資家から見て一貫性・比較可能性・信頼性に優れた形で開示されるよう設計されています。つまり、ISSB基準には、TCFD提言よりも一歩踏み込んだ要件が盛り込まれていると言えます(強化された要件の概要は、今後の記事で紹介します)。
気候関連情報の開示内容の統一化が進むことで、世界中の投資家による世界中の企業への出資検討の効率化が可能となります。ESG投資が国際的に盛り上がりを見せる中、企業にとってはISSB基準に基づく開示を進めることで世界中から投資を呼び込むチャンスの拡大が期待されます。
このようなチャンスがある中、企業はどのような対応をするべきか。次回は、企業に今後求められる対応と推進のための3つの指針をご紹介します。
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