前述の通り、Amazon Styleは、アプリによる試着順の管理や試着室内でのレコメンド機能など、新たな技術を導入して優れた顧客体験を提供することをアピールポイントにしていました。
しかし、アパレル商品を買いに来る人にとってそのような技術がどれだけ訴求力や満足度につながっていたのかは疑問が残ります。
オンラインの場合、プロダクトをリリースしてからABテストやバグ修正を繰り返すことでユーザー体験を高めていくことができます。一方、実店舗内でシームレスにそういった改善を行うのは難しく、想定外の問題やトラブルが発生したときなどに対応するのも難しいといえます。
アマゾンはこうした技術主導の効率性と、人間中心のリテール店舗ならではのバランス感覚を、ファッション分野においてはまだつかんでいないのかもしれません。
実店舗の運営には光熱費や賃料、店舗スタッフの人件費など多くのコストがかかります。そのため、アマゾンが優位性を持つEC事業と比較すると収益性やスケーラビリティ(拡張性)が低く、課題が大きいといえます。
加えて、ファッション店舗特有の運営の複雑さも考慮すると、アマゾンのファッション分野にとってはノウハウの乏しい実店舗運営に長期間投資するよりも、競合優位性を持つECに注力するほうが投資対効果が大きいという判断になることもうなずけます。
実店舗でのリテールビジネスはオンラインと異なり、実験的に数年やったところで結果がすぐ出ない可能性もあるため、Amazon Styleの実験的アプローチでは結果につながりにくかったのかもしれません。
ここまでリテール店舗ビジネスを閉鎖しても、次々と新しい店舗ビジネスを生み出すアマゾン。実店舗のリテールビジネスはアマゾンにとって未開拓の市場ともいえ、次はどんなリテールビジネスに挑戦するのか期待したいと思います。
パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
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