大戸屋といえば経営難になった印象が強い。19年3月期・20年3月期と相次ぐ値上げで実際に客足が遠のき、21年3月期には債務超過にも陥った。弱った同社を狙う形で飲食大手のコロワイドが買収し、20年からグループの傘下としてさまざまな施策を行っている。
特に30〜40代男性からなる「離脱者層」の呼び戻しを急務としており、決算資料からは「(1)男性向けメニューの充実化」「(2)新業態店の展開」「(3)飲食事業以外への進出」の3方針がうかがえる。
(1)に関して、これまで大戸屋は女性がターゲットの定食を強みとしていたが、ハンバーグやプルコギなど男性向けのメニューを随時投入している。(2)では、主に商業施設やフードコートへの展開を進める。最後の(3)として新業態「大戸屋 おかず処」を通じた総菜小売事業の展開や、ドラッグストアでの冷食販売などを始めている。(2)と(3)については、大戸屋の知名度を生かせる関東での成功が期待できそうだ。
対するやよい軒は、運営会社が非上場化したため情報は少ないものの、プレスリリースなどから追っていくと、大戸屋と同じく男性向けメニューの充実化を進めていることが分かる。肉や唐揚げに関するキャンペーンが多く、12月から提供している「野菜とラムのジンギスカン定食」も、メニュー名に「野菜」とありつつ肉がメインだ。やよい軒は同月から初の病院内店舗も始めており、今後公共施設への展開を強化するかもしれない。
19〜22年度の業績は次の通りだ。両チェーンともコロナ禍でテレワークの導入や消費者の外出自粛といった打撃を受けている。定食業態の業績悪化は、必需性の高いファストフード業態と明暗が分かれた形といえるだろう。
大戸屋:約245億円→約161億円→約188億円→約238億円
やよい軒:約304億円→約244億円→約253億円→約297億円
両者とも業績は回復しつつあり、コロワイド傘下に入った大戸屋は先述の3方針で巻き返しを図っている。対するやよい軒も男性向けメニューの充実化という点では共通する。某外食チェーンは過去に女性向けメニューを強化しようとして利益が圧迫されてしまった経緯がある。そのため、リーズナブルな商品を売りにする外食チェーンにとって男性向けの強化は避けられない戦略と考えられる。
一方、出店戦略では大戸屋が商業施設を狙っているのに対し、やよい軒は初の病院内出店を決めた。ポテンシャルは未知数だが病院内店舗が成功すれば公共機関への出店を強化するだろう。今後、両者の出店戦略に違いが現れ、明暗を分けることになるかもしれない。
山口伸
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー X:@shin_yamaguchi_
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