値上げラッシュでもなぜ「値下げ」? 幸楽苑・ガスト・なか卯、それぞれの戦略(4/4 ページ)

» 2023年12月21日 05時10分 公開
[山口伸ITmedia]
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値下げで何を狙っているのか?

 各チェーンにおいて、値下げの目的はもちろん集客である。しかし、近年の動きや競合各社のメニューなどをより俯瞰(ふかん)的に見ていくと、値下げの細かい思惑が見えてくる。

 親子丼のみを値下げしたなか卯は「牛丼」を意識しているのではないだろうか。吉野家や松屋、そして同じグループであるすき家の牛丼価格(並盛)はそれぞれ468円・400円・400円である。主力商品である親子丼の価格帯を牛丼と同じ土俵に載せることで、なか卯のお得感が増し、ランチ客を取り込みやすくなると考えられる。

同じゼンショーグループ・すき家の牛丼は並盛で400円だ(出所:すき家公式Webサイト)

 また、なか卯といえば200円台の小うどんセットも売りの一つだ。安い親子丼を目当てに入店した客がセットメニューを注文することで、全体として売り上げ・利益が増えることを狙っているとみられる。

 苦肉の策で値下げを実施した幸楽苑は「安くない」というイメージの払拭(ふっしょく)を狙ったのではないだろうか。かつて税別290円の中華そばを看板商品にしていた幸楽苑は「安い」印象があった。

 だが、インフレの波に耐えられず徐々に値上げを実施。現在では突出して安い印象はなくなりつつある。幸楽苑におけるラーメン系メニューの価格帯は概ね600〜800円であり、390円を堅持する日高屋、600〜750円という餃子の王将よりもやや高めだ。現在490円の中華そばは、日高屋よりも100円高い。今回の値下げは規模縮小を進める中で、残す店舗への集客を図りたい思惑があるとみられる。

390円を堅持し続ける、日高屋の中華そば(出所:日高屋公式Webサイト)

 ガストはアルコールメニューを楽しむ客層をターゲットにしていることが明らかだ。上記の通りアルコール類の値下げを行い、つまみになりそうな料理も値下げしている。500円のビールはちょい飲み客を狙う日高屋や格安居酒屋の鳥貴族といったチェーンより高いものの、600円台で提供する居酒屋もある中で比較的リーズナブルな印象がある。

 特に目立つのが300円のハイボールとレモンサワーで、こちらは日高屋や鳥貴族よりも安い。ガストは今年に入ってから基本閉店時間の延長(午前0時まで)や深夜営業の再開を進めている。最近ではサイゼリヤも午後11時まで営業するようになった。外飲みを控える動きがなくなりつつある中、今回の値下げには飲む客をいち早く取り込みたい思惑があるとみられる。

 値下げを歓迎する消費者は多いだろう。進行し続けると思われた円安も落ち着きを見せ、原材料価格や資源価格の上昇も少しずつ収まりつつある。一方、これまでの値上げによって外食チェーンは経営状態に余裕を持つようになった。次にどのチェーンが値下げを実施するか、注目である。

著者プロフィール

山口伸

化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー X:@shin_yamaguchi_


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