日中自動車メーカーのASEAN争奪戦池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2024年01月01日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

WTO加盟の意味

 と書くとそうやって他国を非難するのではなく、戦って打ち勝てという意見が降ってくる。それなら簡単な話で、米国は第七艦隊を派遣して砲艦外交で中国に不平等条約でも飲ませてやれば良いだけのこと。19世紀のスタンダードに戻ればなんということはない。かつての欧米列強はそれを反省し、そういう手段を使わないで発展するためのルールを作った。その大事なルール破りを非難せず、ルールを守らない相手のやり方に合わせて、真っ向から実力勝負するということはそういうことになる。

 だからこそWTOができた。以下外務省のサイトから抜粋する。

WTOとは

 WTO(世界貿易機関:World Trade Organization)は、ウルグアイ・ラウンド交渉の結果1994年に設立が合意され、1995年1月1日に設立された国際機関です。WTO協定(WTO設立協定及びその付属協定)は、貿易に関連する様々な国際ルールを定めています。WTOはこうした協定の実施・運用を行うと同時に新たな貿易課題への取り組みを行い、多角的貿易体制の中核を担っています。

WTO協定(WTO設立協定及びその附属協定)

 いわゆる「WTO協定」とは、「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(通称:WTO設立協定)」及びその附属書に含まれている協定の集合体。

 附属書1〜3については、WTO設立協定と不可分の一部を成しており、一括受諾の対象。従って、WTO加盟国となるためには、WTO設立協定と附属書1〜3の全ての受諾が必要。

 附属書4については、一括受諾の対象ではなく、WTO加盟国であってもこれらの協定を受諾しなければならない義務はない。これらの協定は、受諾国の間でのみ効力を有する。

 1947年に作成された「関税及び貿易に関する一般協定(通称:1947年のガット)」は、WTO協定附属書1A(A)「1994年の関税及び貿易に関する一般協定(通称:1994年のガット)」の一部として新たに生まれ変わり、現在に至っている。

<マラケシュ協定の付属書省略>

ガットからWTOへ

 1930年代の不況後、世界経済のブロック化が進み各国が保護主義的貿易政策を設けたことが、第二次世界大戦の一因となったという反省から、1947年にガット(関税及び貿易に関する一般協定)が作成され、ガット体制が1948年に発足しました(日本は1955年に加入)。貿易における無差別原則(最恵国待遇、内国民待遇)等の基本的ルールを規定したガットは、多角的貿易体制の基礎を築き、貿易の自由化の促進を通じて日本経済を含む世界経済の成長に貢献してきました。

 ガットは国際機関ではなく、暫定的な組織として運営されてきました。しかし、1986年に開始されたウルグアイ・ラウンド交渉において、貿易ルールの大幅な拡充が行われるとともに、これらを運営するため、より強固な基盤をもつ国際機関を設立する必要性が強く認識されるようになり、1994年のウルグアイ・ラウンド交渉の妥結の際にWTOの設立が合意されました。

 長すぎるので省略した付属書を補足すれば、4つの原則がある。関税及び貿易に関する一般協定のためのものであり、輸出入に関わる規制の話である。各項目に筆者による簡単な解説を付けるが、あくまでもその項の言わんとすることをまとめただけのものである。正確な情報を求める向きは「外務省+WTO」で検索して、付属書を読んでもらいたい。

  1. 最恵国待遇原則 貿易に際し、一番良い待遇の国の条件に全ての国の待遇をそろえること
  2. 内国民待遇原則 貿易に際し、内国民と同じ待遇を外国に与えること
  3. 数量限定の一般的廃止の原則 貿易に際し、関税などを例外として他に制限を設けてはならない
  4. 合法的な内国産業保護手段としての関税に係る原則 内国産業の保護を目的とする関税は認めるが最低限のものとする

 そして、この1〜3に関してはWTOに加盟するなら必ず批准しなければならない。つまりこれを守らずにWTOに加盟することは許されない。そして中国は2001年にWTOに加盟したにもかかわらず、このルールに違反しつつ、ルールを守る国との貿易を極端に有利に進めてきたのである。

 というところで上に挙げた中国国内でのクルマの販売に対する条件の数々をみれば、第2項と第3項に完全に反している。しかも後にテスラだけ合弁会社の設立を免除したことに際しては見方によっては第1項に違反する。テスラ以外のメーカーにも合弁の解消を認めない限りそういう見解になる。

 そういう保護主義的貿易政策を設けたことが、第二次世界大戦の一因となったという反省からスタートしたはずのWTO体制を、中国は完全に破壊してしまった。人類の叡智への反乱である。

 それによって、米国は明らかに保護主義的でWTOルールを逸脱した「インフレ抑制法」を施行したし、欧州もまた同様な「国境炭素税」を画策しているほか、フランスは独自に恣意的ともいえる補助金基準の改定を行って、輸送距離の長い輸入BEVには補助金対象外にすることを検討中である。

 米国は18年に、この中国製造2025のアンチWTO主義を咎(とが)め、WTOルールの順守について中国政府に強い申し入れを要求してきたが、一向に守られない。業を煮やした米欧は、相手がそうならとばかりに、まずは制裁課税を発動させ、次いで自らもルールを破る決断をした。人類は悲惨な戦争からの貴重な学びとしてWTOルールを定めたにも関わらず、いまそれは全部なきモノとして、一触即発の状態に移行しようとしている。

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