さて、コラム「女性役員比率30%目標から人的資本経営を見直そう」では、採用、育成、登用までをパイプラインのように捉えることの重要性を指摘した。そこで以下では、パイプラインのスタートとして新卒採用、ゴールとして役員選任に着目して、有価証券報告書の記載状況を確認してみよう。
まず、新卒採用から見ていこう。女性の新卒採用の目標について記載している企業はどの程度あるのだろうか。こちらも女性管理職比率と同様に、TOPIX500構成銘柄で3月期決算の企業は380社を対象に確認したところ、女性の新卒採用に関する目標値を記載している企業は52社、13.7%にとどまっていた。
女性管理職比率が低いことの説明として、しばしば聞かれるのは「管理職候補となるような女性従業員がいない、または少ない」や、「管理職候補の女性に意欲がない」などである。
しかし、そもそも新卒採用時点で、女性比率がかなり低いことも珍しくない。新卒採用が少なければ、自ずと管理職候補となる女性の数も少なくなる。同性の同期が少ないことから疎外感を感じれば、退職率が上がるかもしれない。そのようになった場合、管理職候補はさらに少なくなる。こうした環境での育成・登用は難しい。これらの弊害を避けるためには、新卒採用の時点で一定数・率の女性採用を念頭に置く必要がある。
次に役員比率についても見てみよう。23年6月に公表された「女性版骨太の方針」には、2030年までに女性役員比率30%以上という目標が掲げられた(※1)。女性管理職は将来の役員候補でもある。女性管理職比率が低く、男性が多数を占めている状態であれば、将来の役員候補もまた男性が多数を占めることになる。
※1:内閣府男女共同参画局「女性活躍・男女共同参画の重点方針2023(女性版骨太の方針2023)」(23年10月17日アクセス)
こうした問題意識に基づいて、TOPIX500構成銘柄で3月期決算の380社を対象に、女性役員に関する目標値を記載しているか確認したところ、その結果は21社(5.5%)に限られた。
なお、「女性版骨太の方針」は23年6月に公表されたが、この時点で3月期決算の各社の有価証券報告書は承認済みや最終承認を待つような段階であったと考えられる。そのため、今回提出された有価証券報告書が「女性版骨太の方針」を反映したものとは考えにくい。今後、「女性版骨太の方針」を意識する企業が増えれば、この5.5%という値も高まっていくものと考えられる。
ここまでの情報を整理してみよう。女性管理職比率の実績値をベースとし、パイプラインのスタートに新卒採用、ゴールに役員登用、その間に管理職登用、それぞれの目標の記載状況をまとめた(図4)。なお、新卒女性採用に関する目標、女性管理職比率の目標、女性役員に関する目標の3つをいずれも記載していたのは、380社中2社だった。
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