模倣品か、世紀の傑作か――「パルワールド」が熱狂を生むワケエンタメ×ビジネスを科学する(2/2 ページ)

» 2024年01月29日 12時15分 公開
[滑健作ITmedia]
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「良いとこどり」の巧みさ

 これほど多くの人々が遊んでいる背景には、第一に世界中で人気のあるジャンルであるサバイバルクラフトゲームと、モンスター収集・育成・戦闘要素を組み合わせた点が挙げられる。

 私の過去の記事で、中国発のゲーム「原神」の成功要因を解説した際「市場環境に合致した要素を独自に組み合わせた設計」と述べたが、本作も同様だ。

 ポケットペアはおそらく、数多くのオープンワールドゲームを研究し、それぞれの勝因を分析した上で「まだ見ぬ独自の組み合わせ」を探り当てたことが人気につながったものと考えられる。

 また、パルワールドはストリーマー(配信者)が配信しやすいジャンルのゲームであることも人気に拍車をかけた。同作はオープンワールドクラフトゲームというジャンル柄、プレーヤーの自由度が高い。また、パルの名前や種類、能力、登場人物など、日本のアニメやゲーム、ハリウッド映画由来のパロディーやユーモアが豊富に用意されている。加えて、パルに銃などの武器を装備させることや、身代わりとして盾にすることも可能である。それらの挙動がポップな絵柄とあわせてコミカルな演出となっている。

 これらの自由度の高さ、ツッコミどころの多さはストリーマーにとって「配信映え」させやすい要素にほかならず、すでに多くの実況配信やプレイ動画が投稿されている。

 実際にパルワールドは、ゲーム配信プラットフォームのTwitchで最も視聴されているゲームの一つとなっている。昨今のゲーム市場では、メディアを通じたプロモーション以上にストリーマーを通じた視聴がゲームの成功を左右するとも言われており、Twitchでの配信・視聴者数増はパルワールドの知名度や人気がさらに高まる先行指標といえる。

「労務管理」が面白い? 面白さの中核は

 パルワールドの人気の理由は「市場環境に合致した要素を独自に組み合わせた設計」と先述したが、それはポケットペアの過去作「クラフトピア」も同様だ。同作もまた異なるジャンルの要素を融合させたゲームであり、その独自性と自由度の高さが評価されていた。

 余談だが、クラフトピアはアーリーアクセスにしても粗いと言わざるを得ないような、未調整段階でのリリースであった。そのため運営側が想定していない挙動をユーザーが見つけ出し、SNSで広がり、公式アカウントが「実装してないのに……」と応えるやりとりが恒例化していた。こんな楽しみ方もまた、大手ゲーム会社が開発したゲームでは味わえない体験だ。

 パルワールドはより安定度が高い状態でリリースしており、現状致命的なバグや挙動は報告されていない。またクラフトピアの開発で得た知見は本ゲームにも生かされており、前述した「パルによる作業の自動化」はその代表例であり、パルワールド独自の面白さのコアにもなっている。

工場のようにラインを設置して、パルに作業してもらう

 上述したように、このゲームの強みの一つは収集・育成要素である。しかし強力なパルを収集するためには強力な道具と装備が必要であり、それらのクラフトを全て自力でやっていては膨大な時間がかかる。

 それを効率化するためにパルに作業を分担してもらい自動化するわけだが、単純にはいかない。資源があり拠点設置に適する場所の選定、作業場所から格納場所・餌場までの動線設計、食事やメンタルヘルスの管理など考えることが実に多い。

 特にメンタルヘルスの管理は重要であり、働かせすぎると「胃潰瘍(かいよう)」や「うつ病」になり、治療が必要になる。つまり、プレーヤーが行うことは「工場設計」およびパルの「労務管理」である。

 オープンワールドクラフトサバイバルを楽しむため、また収集・育成・戦闘を楽しむためには、それらを支える1次・2次産業で働くパルたちの環境整備が必要ということこそが、このゲームの特筆すべき独自性といえる。

模倣品か、未踏の傑作か

 パルワールドは一部のゲーム内の要素やキャラクターデザインについて、賛否両論が沸き起こっている。批判の多くはキャラクターデザインに関するものであり、その是非については専門家に判断を委ねたい。

 ゲームビジネスとして見た時、特筆すべきはやはり「日本のインディーズメーカーが、Steamという競合ひしめくゲームプラットフォームにおいて、歴代2位の同時接続数を叩き出した」という事実だ。

 ちなみに本作がプレーされているユーザーの国別のシェアは、Steamの国別ユーザー比とほぼ重なるということだ。まさに世界市場に通用するゲームを世に出したことになる。これは日本のゲーム業界にとって、そして今後ゲーム業界を志す人々にとって大きな意義を持つ。

 特にオープンワールドクラフトゲームというジャンルは、大規模な開発体制でなければヒットさせることは難しかった。しかしパルワールドは、そうした常識を覆す快挙を成し遂げたのである。

 パルワールドはまだアーリーアクセス版であり、開発は継続されることになっている。ポケットペアはパルワールドのロードマップを公開し、今後のアップデートの内容を明らかにしている。その中にはバグ修正やパフォーマンス改善などの調整が加えられるとともに、新しいパルやマップの追加、PvP(対人戦)要素の追加も計画されている。これらのアップデートにより、パルワールドはこの先どのような姿を見せるのか。注目したい。

著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく) 

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 株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。

 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。

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