自治体DX最前線

初心者ママの不安、デジタルでこう解決せよ 佐賀県の「子育てDX」(2/2 ページ)

» 2024年01月31日 07時00分 公開
[山本理奈ITmedia]
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「アプリの導入」で終わらない。直接的支援につなげるためのデジタル活用を

 アプリの導入にあたり、「妊娠期から出産間もない頃の女性と家族の支援につなげられること、利用者が安心して使用できることを意識して選定した」と山口氏。19年に出産した女性の3人に1人(全国で280万人)が利用していて、ユーザー間のトラブル防止の取り組みにも注力しているママリは、県民に安心して利用してもらえる実績と仕組みがあったという。

 妊娠や出産、育児に関する悩みや質問の投稿ができるママリの機能に加え、佐賀県版ママリでは同じ地域に住む人とやりとりができる機能や、保健師や助産師などの専門家にチャットやビデオ通話で相談できる機能、県や市町からのお知らせが届く機能などを追加した。

デジタル活用により、妊娠出産から子育てまで切れ目なく支援可能な体制の構築に成功した(提供:佐賀県庁)

 「ママリの利用者には、初めての妊娠から、子どもが保育園に上がってママリ以外のコミュニティーができるまでの方が多いと考えています」と山口氏。利用者からは「子育て支援センターに行ってもなかなか他のママに声を掛けられずにいたが、ママリで支援センターに一緒に行く人を見つけられた」「引っ越してきたばかりで知り合いもおらず、どこに相談していいのか分からないときに、ママリを使って地域の情報を得ることができた」などの声が寄せられているという。

 また、佐賀県版ママリをリリースした21年はコロナ禍の影響もあり「思うように外出ができず支援センターにも行きづらい中でも、ママリで専門家に相談できて助かった」「同じ悩みを持っている人がいると知れただけでも安心できた」との声が上がるなど、妊娠・育児中の女性の大きな支えとなったようだ。

21年7月1日に佐賀県版ママリの利用を開始。多くの人が利用している(提供:佐賀県庁)

 佐賀県版ママリの県内での浸透は、その利用者数からも見て取れる。母子手帳交付の際などに佐賀県版ママリを紹介する仕組みにしたこともあり、21年7月の事業開始から23年11月までに約4000人が新規登録。佐賀県版ママリのリリース前から利用している人も含めると、約1万人が登録をしているという。

 「佐賀県版ママリの大きなターゲットである、第一子を妊娠・出産した方の多くがサービスを利用してくださっていると認識しています」(山口氏)

 佐賀県版ママリのリリース後も毎年新機能を追加しているといい、今後も母子手帳アプリなどのデジタル活用に積極的に取り組んでいきたいと山口氏。一方で、アプリをゴールにせず、そこからいかに支援につなげるかが重要だと話す。

 「アプリだけにお任せするのではなく、利用者の中でもさらにサポートが必要な人の支援につなげることが重要だと考えています。例えば、佐賀県版ママリではアプリを専門家への相談窓口として活用している他、アプリ内でよく検索されるワードを市町の保健師と共有することで、直接的な支援の強化にもつなげています。『助産師や保健師、心理士などと連携し、お父さんお母さんたちを支えていく体制をつくる』ということは、デジタル活用に取り組む中で常に忘れないように意識しています」(山口氏)

パパ向け情報も発信! デジタル化で届きやすくなった支援

 佐賀県では、妊娠・出産をする女性への支援はもちろん、父親になる男性への支援も手厚い。佐賀県が推進する「子育てし大県“さが”」プロジェクトの取り組みの一つに、「マイナス1歳からのイクカジ推進事業」というものがある。この事業では「男女共同参画社会の実現のためには、男性の家事・育児への参画が非常に重要である」という考えの下、さまざまな取り組みを行っている。

 例えば佐賀県版父子手帳や佐賀県版育休ガイドブックの配布、沐浴(もくよく)指導や育休セミナーの開催などにより、妻の妊娠期(マイナス1歳期)からの男性の意識改革を促進。育休ガイドブックの制作などで佐賀県と協力するNPO法人「ファザーリング・ジャパン九州」が立ち上げたLINEオープンチャットでは、育児に関する相談が積極的に飛び交っているという。

 取り組みに関する情報発信には、主に県の子育てポータルサイトや公式LINE、InstagramなどのSNSを活用している。アプリの活用も含め、デジタルを活用した子育て支援や情報発信を行うようになったことで「今までチラシなどで発信をしていた頃には届かなかったような方のところにも、情報が届きやすくなったと感じています」と山口氏。

(提供:佐賀県庁)

 子育てを支援する環境づくりに取り組む佐賀県。初めて人の親になる経験は誰にとっても大きな不安を伴う。保健師など専門家とのネットワークづくりはもちろん、「親初心者」同士の横のつながりを創出する上で、デジタル活用は効果的な一手といえるだろう。

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