「管理職は残業代ナシOK」、実は誤解 法令の正しい意味を知る(2/2 ページ)

» 2024年02月21日 07時00分 公開
[神田靖美ITmedia]
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なぜ「課長以上」なのか

 現在、多くの企業で課長以上の役職者を「管理職」として管理監督者扱いし、残業手当や休日勤務手当の支払いから排除しています。

 部長や係長ではなく課長以上が基準とされているのは、77年に労働省(現在の厚生労働省)が発した通達で、金融機関における管理監督者の範囲について「本部または大規模支店の課長以上」と基準を示した影響によるものです。あくまで金融機関の本部または大規模支店向けの基準でしたが、これが拡大解釈され「課長以上には残業手当を払わなくても良い」という通念につながりました。

 労働省の通達では、管理監督者について「資格や職位の名称にとらわれることなく判断しなければならない」と示されています。課長という肩書さえ与えれば残業手当を払わなくても良いというわけではありません。

管理監督者と呼ぶための条件

 では正当に残業手当の支払いから除外することができる、管理監督者の条件とは、どのようなものでしょうか。

 まず、管理監督者であるかどうかは、役職や社内資格・等級ではなく、実質で判断されます。「当社では課長以上あるいは○○等級以上を管理監督者とする」というように、企業が自由に決められるものではありません。どのような役職や社内資格、等級であれ、行政解釈や裁判例で示された基準に達しない人は管理監督者ではありません。

 88年に労働省が発した通達では、管理監督者の判断基準として次の3点が示されています。

(1)労務管理や事業経営について経営者と一体的な立場にある。

(2)出退勤について厳格な制限を受けない。

(3)その地位にふさわしい処遇を受けている。

 これらのいずれか一つではなく、全てに該当していなければなりません。

 (1)の「一体的な立場にある」とは、「同じ役割を果たす」というような意味です。つまり労働条件や従業員の採用・解雇、経営方針、経営戦略など、会社の根幹に関わる事項を決める会議に出席して、単に社長の話を聞くだけでなく、意見を述べる権限があるということです。

 (2)は、遅刻や早退をしても許されるという意味です。これは意外に思われる方も多いのではないでしょうか。社長や会長ならともかく、専務や常務でさえも、遅刻や早退が自由であるという人はまれです。いるとしたら裁量労働制やフレックスタイムの労働者くらいでしょう。

 これについては2008年の行政通達(参考リンク:PDF)に、遅刻や早退をしたときに賃金カットされたり、人事評価で減点されたりしている場合は、管理監督者ではないと判断する重要な要素となると示されています。逆にいえば、これらさえなされていない限り、必ずしも無制限に遅刻や早退が認められていなくても良いということになります。

 (3)は十分な賃金が支払われていることです。十分ということに絶対的な基準はありません。しかし、たとえ基本給が十分に高くても、役職手当として基本給と明確に区別されて支払われている部分がなかったり、本人の役職昇進前や、役職者でない人と比べて1時間あたり賃金に大差なかったりした場合、裁判では管理監督者に該当しないと判断される傾向にあります。

 このように整理すると、厳密な意味で管理監督者であると認められるような人はまれであると考えられます。大内伸哉『労働時間制度改革』2015年、中央経済社)によると、管理官監督者であるかどうかを巡って争われた主要な裁判は47件あり、そのなかで管理監督者であると認められた例は8件しかありません。

 労働基準法は労働者保護を目的とする法律です。保護策の核心ともいうべき労働時間規制の適用から除外する以上、簡単には認められないのでしょう。

著者紹介:神田靖美

人事評価専門のコンサルティング会社・リザルト株式会社代表取締役。企業に対してパフォーマンスマネジメントやインセンティブなど、さまざまな評価手法の導入と運用をサポート。執筆活動も精力的に展開し、著書に『スリーステップ式だから、成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版)、『会社の法務・総務・人事のしごと事典』(共著、日本実業出版社)、『賃金事典』(共著、労働調査会)など。Webマガジンや新聞、雑誌に出稿多数。上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。MBA、日本賃金学会会員、埼玉県職業能力開発協会講師。1961年生まれ。趣味は東南アジア旅行。ホテルも予約せず、ボストンバッグ一つ提げてふらっと出掛ける。

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