「管理職は残業代ナシOK」、実は誤解 法令の正しい意味を知る(1/2 ページ)

» 2024年02月21日 07時00分 公開
[神田靖美ITmedia]

Q: 人事部に対し、半年前に課長に昇進した従業員からクレームがありました。「管理職に昇進し、残業手当も休日勤務手当も支払われなくなった結果、昇進前より手取り給与が少なくなった」ということです。

 当社では管理職に対し、残業手当や休日勤務手当は一律なしと定めています。他の企業でもよく聞く話ですし、問題はないですよね?

「管理職には残業代ナシ」 NGなケースとは?

A: 多くの企業が取っている「管理職には残業手当や休日出勤手当は出さない」という方針は、労働基準法を根拠にしています。しかし、全ての管理職が管理監督者に当てはまるわけではなく、むしろ課長職など、多くの場合は適用外であると考えられます。

 今回のケースでは、1時間当たりの賃金が昇進前と比べて下がったということです。この点だけで考えても、管理監督者であると認められる可能性は低いでしょう。

分かりにくい「管理監督者制度」

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 労働基準法は「労働時間は1日8時間以内かつ1週40時間以内にしなければならない」「休日は週に最低1日与えなければならない」「休憩は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上与えなければならない」と定めています。

 その一方で「監督もしくは管理の地位にある者」などにはこれらの規定を適用しないとも定めています(第41条)。管理監督者には残業や休日出勤という概念がなく、従って残業手当や休日勤務手当もありません。これが、管理職と呼ばれる人たちに対して多くの企業が残業手当を支払っていない根拠です。労働基準法にはこの他、濫(らん)用されれば「働かせ放題」になりかねない規定として「裁量労働のみなし労働時間制」や「事業場外労働のみなし労働時間制」などがあります。

 これらの制度には、具体的に「○○、○○、○○……という業務にしか適用できない」という制限があります。また、実際に適用するには労使協定(会社と労働者の間で締結する、書面による協定)を締結して労働基準監督署長に届け出る必要があります。これらの措置によって濫用を防いでいるのです。

 しかし管理監督者に関しては、そのような制限が一切ありません。単に「管理監督者には労働時間や休日の規制を適用しない」とうたっているだけです。

 労働時間や休日の規制を適用しないということの意味もはっきりしません。字義通りに解釈すれば「働かせ放題」ということになります。このことについては法律で全く触れられておらず、行政解釈(厚生労働省の取扱基準)もありません。

 東京労働局発行の「しっかりマスター労働基準法・管理監督者編」には「管理職であれば、何時間働いても構わないとの誤解もありますが、『管理監督者』であっても健康を害するような長時間労働をさせてはなりません」と記されています。しかし体を壊すまで働かせてはならないことは自明であり、労働時間の上限はどこにあるのかという疑問への答えにはなっていません。

photo 東京労働局発行の「しっかりマスター労働基準法・管理監督者編」より引用

 管理監督者を巡る裁判例は多数ありますが、いずれもその人が管理監督者に該当するかどうかが争われた裁判であり、管理監督者といえども働かせ放題ではないという判断が示されたものはありません。

 41条がこのように不完備であるのは、1947年に労働基準法を制定した当時、法制化を優先するあまり、この条項に関してはILO(国際労働機関)の条文をそのまま持ってきたことに原因があります。本来は、管理監督者とは何なのかということや、適用するための行政手続きなどについても検討するべきだったと言えます(島田陽一『ホワイトカラー・エグゼンプションについて考える―米国の労働時間法制の理念と現実──』2005年、ビジネス・レーバー・トレンド研究会)。

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