リテール業界はエッジAIを使ったIoTによって飛躍的に進化できる──そう話すのは、AI開発スタートアップのIdein(イデイン、東京都千代田区)の中村晃一CEO。同社では、エッジAIのカメラやセンサー、マイクによってさまざまな店舗の収益改善に取り組んできた。本連載ではエッジAIを使ったIoTでどう収益性改善にアプローチできるのか、大型百貨店やコンビニ、対面接客といったケースごとの事例を基にその方法を紹介する。
昨今、エッジAIの活用が、さまざまな業界で加速度的に広がってきている。
従来のクラウド上で学習を行う「クラウドAI」とは異なり、エッジAIはスマートフォンやカメラなどの電子機器に直接搭載され、データセンターを介さずに端末内で処理するため、消費電力を大幅に抑えられる。将来的には、自動運転車や産業用ロボットなどの分野で活用が期待されている。
1月に米ラスベガスで開かれた世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2024」でも、初めてエッジAI関連技術を集めたエリアが登場し、IntelやPCメーカー各社は「AI PC」という呼び方で、エッジAI関連技術や製品を発表し話題を集めた。
生活者にとってより身近なリテール分野においても、ここ1〜2年でエッジAIの導入が急速に進んでいる。今回は、エッジAIを生かしたリテールDXに挑んでいる、北海道のドラッグストアチェーン大手「サツドラ」の事例を、AI開発スタートアップIdein(イデイン、東京都千代田区)の中村晃一CEOが解説する。
近年、スーパーやドラッグストアといったリテールの現場にもデジタルサイネージを設置する店舗が増えてきています。クラウド型のものも多く、インターネットを通じて画面に表示されるコンテンツの制作や配信管理ができるシステムが主流です。
一方、最近ではAIカメラを搭載したサイネージをご覧になったことがある方もいるでしょう。タッチパネルを操作している利用者の属性や行動を判別して、おすすめのコンテンツを配信するなど、ここでもAIが活用され始めています。ただ、現在のAIはクラウド上でAI処理を行う「クラウドAI」が主流です。
では、AIをサイネージのようなエッジデバイスに搭載(エッジAI)し、端末側で推論や判断を行えるようにしたらどうなるのでしょうか? 3つの観点から比較してみましょう。
クラウドAIでは、顔情報など個人を特定できる情報をそのまま外部サーバー(クラウド)に送りますが、EUでは一般データ保護規則(GDPR)を制定しており、明確に法律に抵触してしまいます。一方、エッジAIではそうした情報の送信をしないことも選択できるため、個人情報やプライバシーを守る観点でメリットがあります。
クラウドAIでは、店舗にあるサイネージとクラウドが基本的には常にデータ通信を行うため、通信コストがかさみがちです。また、解析用のサーバーが必要でクラウドサーバーを使用する場合には高額な利用料が発生します。一方、エッジAIでは端末内でデータを処理し、必要なデータだけクラウドに送信するため、通信コストを圧倒的に低減することができます。
クラウドAIでは前述の通りデータ通信があるため、データのやり取りにタイムラグが発生してしまいます。一方、エッジAIではデバイス内で処理が完結するため、低遅延での処理が可能です。
このように今後、さまざまな現場の端末からデータを収集し、AIを活用しようと考えた場合、大量のデータをクラウドにアップロードしてから、AIに分析させて現場の端末に戻すことはコスト面でもプライバシー面でも現実的ではありません。世界的にエッジAIを活用していく流れは不可逆だと考えられます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング