岩谷産業は高価なカセットコンロを販売しているのに、なぜ8万円を超えるモノを開発したのか。大きな理由は2つある。1つめは、カーデザイナー・山本卓身氏との出会いである。同社は2025大阪・関西万博で水素燃料電池船の運航を予定していて、山本氏はそのデザインを監修。カセットコンロのデザインもお願いしたところ、盃を想起させるデザインが届いたという背景がある。
もう1つは、海外の富裕層向けに何かつくれないかと考えていたこと。というのも、同社のカセットコンロのシェアは85%ほど。国内でこれ以上伸ばすのは難しい数字なので、以前から海外展開にチカラを入れてきた。中でもアジアの国々に使ってもらえるのではないかと考え、そうした国の富裕層向けに「最高級のカセットコンロをつくってみよう」となったわけだ。もちろん、日本国内の富裕層もターゲットである。
開発にあたって最も苦労したことを聞くと、「丸みの部分ですね。初めての試みということもあって、試作品を何度も何度もつくりました」(遠藤さん)。先ほど紹介したように、一般的なカセットコンロのデザインは四角だが、極は円形である。失敗を何度も繰り返して、やっと完成したかなと思いきや、じっくり見ると歪(ひず)みがあったり、色にムラがあったり。
では、どうやって完成させたのか。詳しいことは社外秘であるが、「数」である。協力会社と一緒になって「こうすればよくなるかも」「いやいや、こうしたほうがいいよね」といった会話を交わしながら、手を動かす。何度も何度も試すことで、完成に近づけていったそうだ。
開発期間は10カ月ほど。先ほど開発のきっかけは「デザイナーとの出会い」「海外の富裕層向けに」といった話を紹介したが、個人的にはもう1つあると思っている。それは、シェア「85%」の数字が関係している。
カセットコンロの市場で独走している立場として、「なにか新しいモノをつくらなければいけない」といった使命感にかられたのではないか。こだわった商品を完成させることで「イワタニって、高い技術力があるよね。だから高価格の商品をつくれたんだよ」といったことを、内外に示したかったのかもしれない。
これまでになかった商品を発売したということもあって、いまはいわゆる“ご祝儀相場”なのかもしれない。一段落するのは、いつごろなのか。販売台数は、どこまで伸びるのか。す“極”気になるところである。
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