ようやく制度化「セキュリティ・クリアランス」とは? 民間企業にどう影響するのか世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)

» 2024年03月15日 06時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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国の未来を守るため、法案は不可欠だ

 しかしながら、世界に目をやると、国家の重要情報を扱う資格を得るためにこうした突っ込んだ調査を受けるのは当たり前になっている。米国のセキュリティ・クリアランスのための評価調査票を見ると、質問項目は100ページを超えるほど事細かなものだ。さらにもっと機密度の高い情報を扱うとなると、うそ発見器による調査まで受けなければいけない。

 事実、筆者は、元CIA(米中央情報局)幹部の知り合いの履歴書を見せてもらったことがあるが、そこには「Top Secret/SCI(トップシークレット/機密隔離情報)のセキュリティ・クリアランス所持、全てのポリグラフ調査もパスしている」と記載されていた。要は、セキュリティ・クリアランスとは国家の根幹を支える重要な資格なのである。

 国家機密を漏らされたら国民の生命と財産に多大なる影響を与える。それを考えれば、当然だと思うのは筆者だけではあるまい。

セキュリティ・クリアランス制度の導入は不可欠だ

 セキュリティ・クリアランスでは、適性評価の調査は、あくまで任意である。「そんなことを聞かれてまで仕事したくない」と考えれば拒絶することもできる。ただ重要情報を扱う仕事ができなくなるだけである。

 世界のスパイ機関や、日本や世界で暗躍する諜報員、スパイを摘発する側の防諜組織などを取材している筆者から見ると、国の安全と発展を維持するには、防衛や外交、テロ対策などだけでなく、ビジネスや経済分野にもセキュリティ・クリアランス制度を導入するのは絶対に不可欠だ。

 さもないと、日本は国際的に排除されてしまうだけでなく、国民の未来も守れなくなってしまうのである。

 これまで情報管理の甘さが外国から指摘されてきた日本が、やっと先進国並みに情報を管理する方向に動いている。あとは、情報を盗もうと工作を行うスパイ行為への対策である反スパイ法なども必要になるだろう。ただそれにはまだまだ時間がかかりそうだ。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)がある。

Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル


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