HR Design +

「リスキリングしてくれない社員」に困る企業がやるべき3つのこと(2/2 ページ)

» 2024年03月15日 07時00分 公開
[加々美祐介ITmedia]
前のページへ 1|2       

企業が取り組むべき3つのこと

 生まれ持った個人の資質、性格、育った環境などは、キャリアオーナーシップの発揮度に影響を与えると考えられます。しかし「はたらく定点調査」からは、年代や性別、未既婚、子どもの有無といった属性による大きな違いは見当たりませんでした。言い換えれば、誰しもがキャリオーナーシップを発揮できる可能性を秘めている、といえるのではないでしょうか。

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 筆者は前述した3つの特徴から、特に以下のような取り組みが、社員のキャリアオーナーシップを育むに当たって有効だと考えます。

  • (1)社員にさまざまな経験を積ませ、自信を持ってもらう
  • (2)社員自らが将来について考える機会を定期的に創出する
  • (3)社員の金融リテラシーを向上させる

(1)社員にさまざまな経験を積ませ、自信を持ってもらう

 キャリアオーナーシップを発揮しやすい人ほど、自分に自信がある。ということは、自己効力感が持てれば、キャリアオーナーシップを発揮できる可能性が高まるのではないでしょうか。では、会社として何ができるのか、事例を紹介します。

 まずご紹介するのは、特定企業間での「相互副業」に関する実証実験の結果です。2023年1月から約3カ月にわたり、「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」の活動の一環として実施されたこの取り組みには、小田急電鉄、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、三井情報、三菱ケミカルグループなど9社が参画しました。受け入れ企業の面談を経て、28案件・35人の副業が成立しました。

 実施後の報告会において、副業した個人側からは「社会に貢献できるかもという自信につながった」という声が上がりました。アンケートでは、「成果を出せた」(18%)と「やや成果を出せた」(71%)を合わせた89%が「成果を出せた」、96%が「キャリアを自ら決定していく意欲が高まった」とも回答しています。

 勤務先以外の場所で働き、何かを成し遂げた経験は、必ずやその人の自信につながります。本相互副業では報酬も支払われたため、より「自分のした仕事に意味があった」と実感できた人も多かったと考えられます。

 「大層なスキルがあるわけではないから、副業なんてできない」と思い込んでいるビジネスパーソンは多いようですが、連携企業間での副業であれば安心して挑戦できるでしょう。自らのスキルが社外でも通用することが分かれば、自発的な副業への挑戦も増え、自己効力感を高めることにつながるはずです。

(2)社員自らが将来について考える機会を創出する

 キャリアオーナーシップを発揮しやすい人は、将来のキャリアについてより考える機会が多い傾向にあります。こうした機会を増やすため、自身の目標を他者に立ててもらうという手段もあります。東日本旅客鉄道(JR東日本)が実施したワークショップの事例を通して、詳しく説明します。

 同社の東京建設プロジェクトマネジメントオフィスは、鉄道サービスの基盤となる駅や線路などの新設・改良プロジェクトのマネジメントを担っています。「土木」「建築」「機械」「事務」の4系統が連携して業務を行っています。

 業務上、4系統の強固なつながりが重要です。このため同社は、自身の目標を他者に立ててもらうワークショップを実施しています。同期同士で研鑽(さん)し合い、将来のキャリアをイメージし、そしてリアルに活発なコミュニケーションを取る機会を創出することで、「同期ネットワークの関係性向上」と「多様な視点によるキャリア対話機会の増加」の実現を図っています。

 新入社員向けワークショップのテーマは、「3年目のありたい姿」とそれを実現するための行動です。まず新入社員を対象に実施後、アンケートでは全員が「自分では気付けなかった目標や、個人目標の後押しを得ることができた」と回答したそうです。

 その半年後には、入社2年目を対象に、若手社員の系統横断研修の中でワークショップを行います。同期同士で立てた以前の目標を振り返り、達成に向けた行動目標をアップデートします。

 入社6年目を対象とした、若手社員の系統横断研修でも同様のワークショップを行っています。事前に過去6年間を振り返り、当日、同期同士でと共有・フィードバックし合い、一緒に将来の夢を考えるそうです。

 多くの人は目標や目的があった方が、自発的に動くことができます。また応援し、応援されるとより前向きになれるものです。同社のケースでは、単発で終わらず、体系立て継続的にありたい姿について考えさせている点、そして同期間で切磋琢磨し「仲間も頑張っているのだから私も!」という“ピアプレッシャー”がポジティブに作用している点が、社員自らのキャリアに対する主体性を引き出しているといえるでしょう。

(3)社員の金融リテラシーの向上

 最後に、ちょっと変わった視点を紹介したいと思います。仕事を選ぶにあたってのキーファクターの1つ、それは給与です。なぜなら、いつの時代もそうですが、厳しい今の世の中を生き抜くにために「お金」は必要不可欠だからです。

 年功序列が当たり前ではなくなった現代では、職務給へ移行する企業が増えています。一方で「本当はこの仕事に興味があるけれど、未経験で実績もないし、職務内容が変わったら給与が下がってしまう」と、チャレンジする前に諦めてしまう人が大勢います。

 IDeCoやNISAなどを通じお金に対する不安が少しでも和らぐと、社員は多少、給与が低くても挑戦する勇気が出るのではないでしょうか。企業側にとっては原資の用意という問題はありますが、社員の金融リテラシーの向上は、意思を持ってやりたい仕事を選ぶための後押しになり得るといえるでしょう。

まとめ

 日本人は実は「世界一学ばない」と言われます。パーソル総合研究所の「グローバル就業実態・成長意識調査」(2022年)でも、社外での学習・自己啓発に関して「特に何も行っていない」と回答した日本人は52.6%を占めました。半数を超えたのは日本だけで、調査対象の国・地域(調査都市)の中で堂々の最下位です。

 そんな日本で「社員が自発的に学んでくれない」と嘆きながら研修コンテンツを充実させるのではなく、自然と学ぶ社員、キャリアオーナーシップを発揮できる社員の育成に取り組んでみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール

加々美祐介(かがみゆうすけ)パーソルキャリア株式会社 doda編集長

photo

2005年、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社。人材紹介事業、転職メディア事業で法人営業、およびマネジメントを担い、一貫して企業の採用支援、個人の転職支援に従事。

2013年にはカルチャー変革の仕組みづくりと推進をミッションとした新規部署を立ち上げ、企業変革を成功に導くためのチェンジマネジメントを主導。2014年には人事部門も管掌し、人事制度企画や採用、異動・配置転換、組織・人材開発など、ビジョンの実現と経営戦略の実行に向けた、戦略人事全般を担う。2019年、新しいマッチングサービスを開発する新規事業開発部門を立ち上げ、本部長に。ダイレクトリクルーティング全般、そしてハイクラス転職サービス「iX」(現「doda X」)の事業・プロダクト開発を牽引。2021年には執行役員に。2023年4月、doda編集長、プロダクト&マーケティング事業本部 事業本部長に就任。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.