技術の進歩が著しい現代、スキルは陳腐化しやすくなりました。IT関連を筆頭に、企業が人材に求めるスキルは移り変わっています。
昨今、注目の集まる人的資本を向上させるためにも、多くの企業がeラーニングや学費サポート制度を整備し、社員のリスキリングを後押しています。
そんな中「社員が自発的に学んでくれない」と頭を悩ませる人事担当者や経営者は少なくないようです。働く個人としては「給料が上がる訳でもないし……」「平日は仕事、休日は家のことで忙しいから」とリスキリングするメリットを見いだせずにいる様子です。
しかし、自らの意思でキャリアを選択するために、積極的に学びを取り入れている「キャリアオーナーシップ人材」ほど、年収は高い傾向にあると想定されます。パーソルホールディングスが実施した「はたらく定点調査」(※1)でも同様の傾向が見られました。
(※1)本稿では、10万人の調査対象者から、比較的働き方を選びやすい経営者・役員、自営業・自由業・フリーランス、パート・アルバイトは除外しデータを分析した。
自分の仕事や働き方を、多くの選択肢の中から選べる状況にあると回答した人(以下、キャリアオーナーシップを発揮しやすい人)の平均年収は、512万円。そうした状況にないと回答(※2)した人は467万円であり、その差は45万円にもなります。
(※2)6万1784人のうち、32.7%が「はい」、45.8%が「いいえ」、20.2%が「分からない」、1.2%が「答えたくない」と回答した。
積極的に学び、キャリアを自主的に選択する人は、年収面においても有利になり得る──。これだけでも、働く個人のモチベーションに十分なるのではないでしょうか。
企業はどうすれば、社員のキャリオーナーシップを育むことができるのでしょうか。前述の調査結果からヒントを探るとともに、取り組み事例を紹介します。
まずは、キャリアオーナーシップを発揮しやすい人の特徴について、前述の調査を基に見ていきましょう。
キャリアオーナーシップを発揮しやすい人としにくい人の違いは、現在の仕事を選んだ理由に関する設問において顕著でした。
発揮しやすい人は、自身のスキル発揮や成長に加え、プライベートについても勘案して仕事を選んでいるように読み取れます。具体的には「事業内容や仕事内容に興味があった」(32.6%)、「自分の能力・経験に合った仕事ができそうだった」(25.7%)、「自分の成長・キャリアにつながる仕事ができそうだった」(15.0%)、「ワークライフバランスが両立できそう」(19.9%)などの割合が高い傾向にあります。
一方、発揮しにくい人は、より働きやすさを重視していると見られます。「安定的な企業で働きたかった」(22.2%)や「勤務地の都合がよかった」(34.2%)といった割合が高いのが特徴です。
「仕事を持つ上で、自信を持っている経験や能力」も、キャリアオーナーシップを発揮しやすい人としにくい人に差が出ています。
発揮しやすい人は「今までの仕事の経験」(38.1%)、「専門的なスキル」(23.9%)、「コミュニケーション力・対話力」(28.7%)、「仕事の遂行力」(29.5%)が比較的高い傾向にあります。これまでの経験が自信につながっているからこそ、自らのスキルを発揮し、より成長を見込める仕事を選んでいるのかもしれません。
発揮しにくい人が前者を上回る項目は、残念ながら唯一「自信を持てる点がない」(15.9%)のみでした。発揮しやすい人は6.1%だったため、その差は9.8ポイントに上ります。
過去に仕事を選んだ理由、これまで培ってきた経験や能力に対する現状の自信だけでなく、将来のキャリアに抱いているイメージにも違いがあります。
将来のキャリアについてどの程度イメージしているかという問い(※3)に対し、キャリアオーナーシップを発揮しやすい人は「会社でキャリアプランを考える機会がある」(15.0%)、「自分の中で大切にしたい価値観が決まっている」(40.5%)を答えた人が多いことが特徴的でした。
(※3)(※3)「あまりイメージできていない」という回答以外を選んだ人が、本問いに対しての理由を回答した。
今後のキャリアについて考える機会があると、重んじていきたい価値観が明確になります。だからこそ、仕事や働き方を自ら選べる状況にあると感じているのかもしれません。
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