「銭湯のある街は豊かである」。東京・高円寺にある老舗銭湯「小杉湯」の代表、平松佑介さん(43)。3代目として90年にわたり地域に愛される老舗銭湯を守りながら、4月には最先端ファッションの街、原宿での銭湯経営に挑む。サウナや新形態の温浴施設がブームとなる中、「街の銭湯」が果たす役割や価値を伝えていく。
昭和8年に創業した小杉湯。戦後、平松さんの祖父が買い取り、平成28年に平松さんが継承した。創業時から変わらぬ建物は、国の登録有形文化財に指定されている。90メートルの地下からくんだ水質は評価が高く、名物「ミルク風呂」は約41度の設定の白濁のお風呂で、赤ちゃんでも入れる。定期的に変わり種の湯も展開するほか、浴場内でのイベントや地域の企業とのコラボレーションも実施している。
銭湯には「知っている顔の人がいる、たわいもない話をするなど、つながりを緩やかに感じられるサイレントコミュニケーションがある」とし、顔と顔の関係性が魅力の一つとする。人と社会、人と人、世代間などが分断され、孤独や不安感を生みやすい傾向にある現代。「中距離的なご近所関係」という銭湯は、「自分もこの場所にいていいんだ、受け入れられているんだと受容する空間。そんな場所はすごく大事だと思う」と語る。
平日は約500人、土日祝日は約1千人が利用。そのうち6割が近隣からの「常連さん」だが、外国人も含めさまざまな人が訪れる。全体の半分が30代以下で、男女比は6対4ほど。「ふらっと寄れるサードプレイス(第3の居場所)のような場所にしていこう」と、タオルのレンタルやアメニティーも充実させ、さまざまなライフスタイルに寄り添える場所を目指している。
「清潔で気持ちのいいお風呂を沸かす」という祖父からの原点を守る。開店前に4時間、営業時間中、終了後も清掃をし、「終了時に開店時と同じぐらいきれいな状態を目指している」と衛生管理を徹底。また、「いらっしゃいませ」ではなく「おはようございます」「行ってらっしゃい」など家の中と同じ挨拶を心掛けている。セルフサービスである銭湯において、「人がサービスに介在しない分、番台の一言に救われたという人もいる」と言葉を大切にする。
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