「1億円超の損失」「相次ぐ社員の退職」を乗り越え上場 マネされにくい立ち飲みチェーンはどのように誕生したのか(3/4 ページ)

» 2024年03月26日 05時00分 公開
[三ツ井創太郎ITmedia]

出店戦略を誤り1億円の損失を出した「迷走期」

 「当時の私には“1階10坪の小型店でお客さまとの距離感が近い立ち食い業態”という営業スタイルを確立できたという自負がありました。

 次の出店戦略を考えている中で、この営業戦略さえあれば、必ずしも焼きとん業態にこだわる必要はない。このスタイルを別の業態にもインストールしていけば、1つの商圏エリアで5業態×4店舗で20店舗、この戦略を日本全国5つの都市で実行すれば100店舗の事業がつくれるのではと考え、立ち食い肉バル、立ち食い焼肉、立ち食い鰹の藁焼きといった新業態を次々にオープンしました。今思い返すと本当に浅はかな考えだったと思います」

 複数の立ち食い業態を同一商圏内で展開していく戦略でしたが、結果的にこの戦略で出店したお店は全て大赤字。全店舗の撤退により、1億円以上の損失を出すことになりました。

 「この時は本当に落ち込みました。事業を続けていく気力がなくなり、社員はどんどん辞めていく状態で、正直もう今回ばかりは自分は終わりだなと思っていました。そんな中で、創業からずっと一緒にがんばってきてくれていた現専務である中島翔太に初めて弱音を吐きました。その時に中島から『社長、もう一度、一からやり直しましょう』と言ってもらったことで、再度事業を立て直していく決意が固まりました」

 全てを失った大谷社長でしたが、右腕である中島専務と再起をかけて、もう一度一からチャレンジをしていく決意を高めます。そして中島専務とともに、さまざまな改革を推進していきます。

 「『ひとつでも多くの笑顔と笑い声に出会いたい』――これを経営理念に掲げ、さまざまな経営改革を行ってきました。最初に着手したのが人材採用戦略の見直しです。

 それまではどちらかというと“とにかく応募に来た人はできるだけ多く採用する”という採用方針でしたが、この方針を撤廃し、会社の理念を体現できる人材に絞って採用することにしました。さらには、経営理念を体現できる人材を育成するための教育プログラムの構築、KPIを主軸とした評価制度の構築も行っていきました。そして、こうした自分たちの経営戦略を『経営指針書』として冊子にまとめ、全社員に配布しました」

光フードサービスの経営指針書(出所:同社公式Webサイト)
光フードサービスの経営指針書

 光フードサービスの経営指針書には、経営理念、行動指針を始め、トライアングルの解説、評価制度、KPIを図解にしたKPIロジックツリーなど、あらゆる経営戦略が詰め込まれています。

 さらに所々で行動指針のアニメーションなども入れて、若手スタッフにも分かりやすいようにしています。

 「以前はスタッフに対して『売り上げを上げよう!』と昭和型の根性論で発破を掛けるのが経営者の役割だと思っていました。しかし、経営改革を機に“結果につながる精度の高いKPIを設計し、そのKPIを実行できる教育プログラムと評価制度を運用していくこと”が経営者のやるべき仕事だと気付きました」

 こうしてナンバー2である中島専務や社内のスタッフで一丸となって経営改革を推進していく中で、お店の業績も向上していきます。

 「立呑み焼きとん大黒」の住吉店(名古屋市)は創業当時でも10坪、月商350万円という繁盛店でしたが、今では月商1000万円、営業利益率40%の大繁盛店になっています。

 2019年には20店舗で年商10億円を突破。この頃から「株式上場」を意識するようになり準備を始めます。そんな全てが順調に進み始めた矢先にコロナ禍に見舞われます。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.