「1億円超の損失」「相次ぐ社員の退職」を乗り越え上場 マネされにくい立ち飲みチェーンはどのように誕生したのか(4/4 ページ)

» 2024年03月26日 05時00分 公開
[三ツ井創太郎ITmedia]
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新型コロナウイルスで全店舗が営業を停止

 「19年に上場準備を始めたのですが、翌年に新型コロナウイルスの感染が拡大し、全店舗の営業停止を余儀なくされました。会社の口座からお金がなくなっていき、通帳を見ながら本気で倒産を覚悟しました。

 その後、なんとか資金繰りをしていく中で徐々に営業自粛が緩和され、時短営業ができるようになりました。時短営業を開始してから真っ先に来店してくださったのは、昔からの常連のお客さまでした。

 さらに23年5月、新型コロナウイルスが5類に移行してからは、数多くの常連のお客さまが来店され、全店舗が過去最高の売り上げを記録しました。長引くコロナ自粛営業で店舗スタッフのことを心配してくださっており、改めて常連のお客さまのありがたさを痛感しました」

 長引くコロナ禍により、社会全体で人と人とのコミュニケーションが希薄になっていました。しかし、コロナ禍が収束したことで多くのお客さまが忘れかけていた人と人のコミュニケーションを求めて「立呑み焼きとん大黒」に殺到しました。

 これは大谷社長が、創業当初から「お客さま同士のコミュニティー」を軸に経営を行ってきたからこその結果です。こうした取り組みの成果は同社の決算にも表れています。

 コロナ禍直前の19年11月期には全36店舗(直営、業務委託、FC店舗を含む)、年商11億円、経常利益5600万円だった光フードサービスですが、直近の決算である23年11月期は全54店舗、年商22億円、経常利益2.5億円と大きく業績を伸ばしています。

 そして同社は、24年2月28日に東京証券取引所グロース市場及び名古屋証券取引所ネクスト市場への上場を果たしました。コロナ禍という未曽有(みぞう)の経営危機から復活し、上場を果たした大谷社長に今後の展望を伺いました。

にぎわう店内

 「従業員、仲間、取引企業の皆さま、そして何よりも当社を支えてくださったお客さまへの感謝の気持ちが絶えません。このたび、上場を経て当社が経営理念として今まで貫いてきた“ひとつでも多くの笑顔と笑い声に出会いたい”という思いがより強くなりました。今後は、もっとたくさんの地域で、多くの笑顔と笑い声に出会うべく、600店舗体制の構築に向けて営業力を磨いてまいります」

 コロナ禍という居酒屋業界にとって未曾有の経営危機を乗り越え、上場を果たした光フードサービス。居酒屋業界は参入障壁が低く、流行った業態はすぐに真似されてしまうという経営リスクがつきものです。

 こうした中で同社は属人的な要素である「常連のお客さまをつくるサービス」や「お客さま同士のコミュニティー」というコンセプトを、KPIや評価制度、教育プログラム、採用戦略といったマネジメントシステムと一気通貫で連動させました。そして、模倣困難性と生産性が高い唯一無二のビジネスモデルを構築することに成功したのです。

 今後の同社の600店舗体制に向けた戦略に注目していきたいと思います。

大谷社長

著者プロフィール

三ツ井創太郎

株式会社スリーウェルマネジメント代表。数多くのテレビでのコメンテーターや新聞、雑誌等への執筆も手掛ける飲食業・宿泊業専門のコンサルタント。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて料理長や店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとし個人店から大手上場外食チェーン、宿泊業まで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。近年は政府系金融機関をはじめ、東京都の中小企業支援事業の選任コンサルタント、青森県の業務委託コンサルタントに任命される等、行政と一体となった中小企業支援も積極的に行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」「あたらしい飲食店経営35の繁盛法則 V字回復を実現する! (DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。


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