Sansan「30%値上げ」 顧客単価の“頭打ち”脱却なるか業績好調だが……(2/3 ページ)

» 2024年04月17日 08時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

顧客単価は頭打ち? 30%以上の価格引き上げ実施

 とはいえ、今後に死角がないわけではない。顧客単価、いわゆるARPUの伸びが頭打ちになりつつある点だ。要因はさまざまだが、Sansanの顧客単価はこの第3四半期、19万3000円で前四半期から横ばいとなった。Bill Oneの顧客単価も21万4000円から21万8000円と、成長が鈍化している。

コロナ禍での落ち込みを経て、名刺管理サービスから「営業DXサービス」へと進化したSansanだが、対前年成長率は横ばいが続いている(筆者作成)
Sansanはこの第3四半期、顧客単価が横ばいとなった

 この理由は何なのか。そもそも、Sansan、Bill Oneともに顧客単価が上昇してきたのは、大企業への導入が進んだという背景がある。

 Sansanはもともと大企業に強く、中小企業での導入率が0.3%なのに対し、従業員1000人以上の大企業では17.7%が導入しているという特徴を持つ。同様にBill Oneも大企業での導入が加速することで、顧客単価の上昇が続いてきた。もちろん、未導入の大企業も多く成長余地は残っているが、大企業シフトによる顧客単価上昇には難しさも出てきたと橋本CFOは話す。

大企業に強く、大企業への導入が進むことで顧客単価が上昇してきたという流れがある

 「すでに、かなり大企業向けの利用が進んでいるため、さらに加速してエンタープライズを強化していくというよりも、広く手を広げて攻めていく戦いになってくる。なかなか簡単にARPUは上がっていかない」(橋本CFO)

 また導入企業内での利用者数増加も限界が近い。Sansanは、大企業の一部門でまず導入され、そこから他部署、全社へと広がっていく形で普及してきた。利用ユーザー数に応じた課金体系のため、利用者が増えるほど顧客単価(契約企業あたりの単価)も上昇してきた形だ。ところが全社利用に達すると、この流れの単価上昇も頭打ちになる。

 Bill Oneについては、企業の請求書の受領枚数に連動した価格設計を取っているため、既存顧客の中で自動的に単価が上がるという仕組みにはなっていない。

 こうした背景の中、Sansanについては2月に定価を30%引き上げ、Bill Oneについては23年12月から「Sansanよりも大きな値上げ幅」(橋本CFO)で価格を改定した。価格改定は行ってもセールスは好調で、Sansanでは「2月は過去最大の新規受注額」だという。

商品パッケージの組み換えと合わせて、定価ベースで約30%の値上げ(価格の適正化)を行った

 同社は、過去も定期的にパッケージの組み換えや新エディションの作成を行っており、それに伴って新機能を盛り込むことで、価格の引き上げを行ってきた。「今回の取り組みについても、特段何か『3年に1度のすごいことをやった』というよりは、通常のビジネスの営みの中で価格の適正化をまたやりましたという感じ」(橋本CFO)

 こうした値上げの効果は契約更新時から現れていくため、業績に反映されるのは25年3月期からとなる。ただし値上げ幅である30%分売り上げが上昇するかというとそうでもない。これはあくまで定価であって、当然個別交渉で価格は決まるからだ。

 最終的に、大企業シフトの限界や社内利用者増加の頭打ちを、値上げが相殺する形になると橋本CFOは見ている。「定価分、そのままARPUがあがることは考えにくい。これまでのARPUトレンドに沿った伸びになる見込み」(橋本CFO)

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