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「観光業界のリクルートに」 新規上場のダイブ、人とテックで目指す業界変革

» 2024年04月24日 08時41分 公開
[鬼頭勇大ITmedia]

 コロナ禍を乗り越え、再び観光業界に活気が戻っている。

 日本政府観光局が発表した訪日外客数によると、3月推計値は約308万人。「コロナ前」である2019年の同月を11.6ポイント上回り、単月としては初めて300万人を突破した。インバウンド需要だけでなく国内需要も戻りつつあり、JTBの推計によると、2024年のゴールデンウィークにおける総旅行人数は延べ2332万人。2019年比で93.5%、1人当たりの平均旅行費用では国内・海外ともに同年を上回る予想が出ている。

 そんな観光業界で、新たに1社が、3月27日に株式市場(東証グロース)への上場を果たした。観光施設に特化した「リゾートバイト」の人材派遣と地方創生事業を軸に展開しているダイブ(東京都新宿区)だ。

東証グロースへの上場を果たしたダイブ

 中小企業も多く、いまだレガシーな部分が残るとともに、今後日本にとって重要性がさらに高まることが間違いない観光業界において、同社はどのような成長展望を描いているのか。ダイブの庄子潔社長と、増田勇人氏(地方創生事業グループ ゼネラルマネージャー)に話を聞いた。

ダイブの庄子潔社長

「アナログデータ」の蓄積が、大きな競合優位性に

 ダイブは2002年に創業。直近(2023年6月期)の売上高は約82億円で、コロナ前の2020年3月期(約76億円)からコロナ禍を経て、V字回復を果たした。売り上げの多くを占めるのは、ホテル・旅館といった観光施設向けのアルバイトスタッフ、いわゆるリゾートバイトをマッチングする事業だ。単に仕事の紹介だけでなく、住む場所のあっせんも手掛ける。

 同社のサービスを使ってリゾートバイトとして就業する人は、年間で8000人弱(2023年6月期実績)。利用者は、25〜44歳がボリュームゾーンだという。「学生ではないのか」と意外にも感じるが、遠方に住み込みで働くとなると、学生の場合は長期休暇の期間しか働けない。そのため「お金を貯(た)めて留学したい」「現在の仕事を辞めて、次の職場を探す前に新しい体験をしたい」といったニーズから、上記のような層がボリュームゾーンになっている。

 人材派遣というくくりであれば無数のプレーヤーがいるものの、ダイブの大きな特徴は、参入障壁の高いリゾートバイトに絞っている点にある。

 「都市部から遠方への派遣が多いリゾートバイトは、住み込みで働く形なので一般的な人材派遣とは大きく異なります。仕事内容はもちろん、重要なのが住み込む寮などのデータです。当社は約20年にわたってリゾートバイトを手掛けてきた中で、営業が全国の観光施設をまわり、住む場所のデータを蓄積しており、大きな競合優位性になっていると考えます」(庄子社長)

 例えば、寮の浴室は共用かどうか。老朽化していないか。毎日を過ごす場所だからこそ、実際にアルバイトスタッフが現地に行って「事前情報と全く違う」と感じると、せっかくマッチングしたものの定着しないケースもあるという。

 その点、現地に行かないと分からない生の「アナログデータ」を蓄積している点は、確かに大きな競合優位性がある。人手不足に悩む事業者側にとって、ミスマッチを防ぎ、定着するスタッフを確保しやすくなるからだ。

コロナ禍をピンチからチャンスに 「人材派遣」の課題をDXで解消

 リゾートバイトにおけるダイブの大きな優位性は、もう一つある。煩雑なオペレーションをデジタル化している点だ。

 ダイブによると、これまでの人材派遣では、登録があったアルバイトの応募者に対して、まずは1カ所に集まってもらい説明や面談を行い、そこから事業者も交えて紙でのやりとりを含めた双方のマッチング。さらに、内定があった後は給与明細の発行など、非常に煩雑なオペレーションがあった。

 それに加え、リゾートバイトならではの複雑性もある。一般にオフィスワークなどの人材派遣では、まず半年程度のスパンで働いてもらい、そこから働き手と事業者がうまくマッチングすれば、延長、定着へと進んでいく。リゾートバイトは、それと少々事情が異なるのだという。

 「例えば冬は北海道・ニセコで働き、シーズンが終われば春には海開きした沖縄・宮古でビーチスタッフとして。さらに秋になれば、今度は栃木・日光で仲居として働く――といった形で、リゾートバイトは仕事と場所の流動性が高い特徴があります。その点で、一般的なオフィスワークの人材派遣と比較して“手離れ”が悪い傾向にあります」(増田氏)

 ダイブでは、こうした煩雑・複雑な課題をIT化によって解決している。きっかけはコロナ禍だ。売り上げ拡大に伴って組織も大きくなる中で、労働集約型な働き方が課題となっていたところ、同社のビジネスの根底部である観光業界に逆風が吹いたことが、外から内に目を向ける好機となった。

 現在は、同社のデータベースに登録している人ごとにページを用意してフローを管理している。登録した後の日程調整や面談はリモートで完結。履歴書や各種証明書もマイページ経由で提出でき、社内の工数だけでなく、利用者の負担も軽減している。

 就業先の情報も、応募後のプロセスに応じて基本情報や詳細情報、経験者からのレビューが徐々にマイページで確認できるようになるため、情報の一元性が高い。もちろん、給与明細や源泉徴収票などもマイページで確認できる。

 「IT企業からすれば当たり前のことかもしれませんが、人材派遣業界では、こうした点に投資しているケースは意外にも少数派です。働いていて、以前は電話や紙業務が多いなと感じていましたが、直近では非常に負担が軽減できています」(増田氏)

 コロナ禍というピンチをチャンスに変えた取り組みによって、再び成長軌道に乗りつつあるダイブ。庄子社長によると、デジタル化の取り組みによって業務負荷とともに生産性も向上したという。コロナ禍をまたいで、2倍弱の生産性向上を果たした。

ダイブの増田勇人氏

まだまだ成長できる、3つの要因

 すでに業界内で立ち位置を確立しているリゾートバイトだが、3つの要因で成長余地はまだ大きいと見ている。

 まず1つが、働き方の多様性が広がっている、20〜30代への認知拡大だ。ノバセル(東京都品川区)による調査結果では、20〜30代のうち、リゾートバイトを「知らない」と回答した人は51.0%、「聞いたことはあるが詳しくは知らない」と回答した34.5%と合わせて、まだタッチできていない層が85.5%も存在する。

 総務省統計局の労働力調査によると、2023年における25〜44歳の非正規職員・従業員人数は549万人。単純計算で、469万人に対してリゾートバイトの認知拡大余地があり、そのうち10%でも取り込めれば、大きな成長要因となり得る。働き手に対して事業者がレビューする機能もあることから、スキルを身に付けた上で正社員に転身するといったキャリアアップが望めるもの大きい。

 2つ目が、シニア層。これまで積極的にマーケティングしてこなかったものの、同社でシニア層と定義している50歳以上のリゾートバイト就業者は、10年ほどで45倍に成長しており、今後も増加が見込める。

 「例えばアーリーリタイアしたバイクの趣味がある方の例では、長野県で調理スタッフとして働き、休日は家族を招いて料理を振る舞ったり、ツーリングをしたりとセカンドライフを楽しまれています。その他にもゴルフやスキーといった趣味はリゾートバイトと相性が良いですし、非常に期待している領域です」(庄子社長)

 3つ目が、外国人人材だ。ダイブの人材派遣は住み込みで働く前提の案件をそろえており、ワーキングホリデーや特定技能制度を使って来日する外国人にとって、物件探しの必要がなく、利便性が高い。外国人採用の専属チームも社内にあり、すでに毎月数十人単位で、アルバイトではない正社員としてマッチングの実績を挙げている。

ビジネスモデル

観光業界で、リクルートのような存在感を

 今後は人材派遣だけでなく、2019年に立ち上げた地方創生事業での成長も目指す。地方創生事業では、観光地として高いポテンシャルを有していながらも、生かし切れていないエリアに注目。「非観光地」の観光地化を目指し、各地でアウトドア宿泊施設の運営を行っている。リゾートバイトとの相性が良いのもポイントだ。

 中でも自治体が抱える遊休地・施設に目を向け、それをブラッシュアップする形で宿泊施設を立ち上げることで、利用者にとって自然を味わい、地域ならではの体験をコスパ良く体験できる点が人気を博している。

 その代表例が、2021年5月に岡山県津山市の「阿波(あば)地区」でオープンした「ザランタンあば村」。もともとキャンプ場として運営していながらも収益化が進まず、市の財政を圧迫していた地域で「田舎暮らしを体験できるリゾート」として営業を開始した。当初のキャンプ場と比較して、売り上げは20倍以上になっており、過疎化に悩む地域の雇用創出といった副次効果も挙げている。

 その他、観光業界のDXにも取り組む考えだ。

 「ホテル・旅館は中小企業が運営していることも多く、単独で大掛かりなITシステムを入れる余力がないケースも散見されます。そこで、安価なソリューションを提供することで変革を起こしていければと考えています」(庄子社長)

 「観光は成長産業であり、レガシー産業でもあります。そこで変革を起こすには、テックだけでは不十分で、オフラインも組み合わせたステークホルダーとの関係性構築も非常に重要です。その点、当社は各所にコネクションがある点が大きく、今後は人材派遣にとどまらず『観光業界とテックなら、ダイブだよね』といわれるようになっていきたいと考えています。イメージとしては、リクルートのような企業がベンチマークです」(増田氏)

 コロナ禍からのV字回復を果たし、まだまだ観光業界は成長の可能性を秘めている。少子高齢化が深刻になる中で、今後地方部の人手不足が過熱するのは間違いない。人とテックで、ダイブはどのように観光業界を変えていくのだろうか。

成長戦略

著者プロフィール

鬼頭勇大(きとう ゆうだい)

フリーライター・編集者。1993年生まれ。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、Webメディア「ITmedia ビジネスオンライン」副編集長を経て、独立。飲食系から働き方、自治体・エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。趣味は野球観戦(鯉党)。

X(旧Twitter): @kitoyudacp

note: https://note.com/kitoyudacp/


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