健康経営の具体的な取り組みは、鍋島氏と健康推進室の室長で管理栄養士の太美善(たい みそん)さんの二人三脚で実施している。「ES(社員満足)施策はトップダウンで、CS(顧客満足)施策はボトムアップで」というのが鍋嶋氏の持論だ。
「福利厚生について社員の希望を聞いても、予算感が分からないでしょうし、遠慮もあるでしょう。まずはトップや責任者が考えて施策を始め、それから社員の皆さんの意見を聞き、よりニーズに合ったものにしていく方が効率的です」(鍋嶋氏)
多岐にわたる施策の中でも目立つのが、食に関する取り組みだ。朝食習慣を付けるために各営業所でバナナ、ゆで卵、トマトジュースを毎朝提供。他にも病気にかかりにくい身体を作るために週に2回、乳酸菌飲料(ヤクルト)を配布、季節ごとに旬の野菜や果物、肉や魚などを社員の家族の分まで提供――といった取り組みを長年続けている。
バナナやヤクルトの配布に関して、社員からは開始当初「自分たちは猿じゃない」「子ども扱いしないで」といった声もあったが、今では「健康は食から」という考えが浸透した。
社員の健康意識の向上に大きな役割を果たしたのが、2018年から雇用を始めた管理栄養士の存在だ。太さんはその3代目に当たる。
健康診断で異常所見があった社員には、その原因やリスク、食事や運動のアドバイスをしたためた手紙を送る。それ以外の時期でも希望があれば健康相談にのる。コロナ禍で直接相談を受けるのが困難になった時期からは、LINEでの情報発信および相談の受け付けも始めた。
一定の期間中に歩数を競い、上位の個人やグループに賞品が授与されるウォーキングイベント、LINEグループへの登録を条件とした抽選会など、「楽しさ」や「お得さ」を感じられる企画で関心を引き、行動を促す工夫も欠かさない。そのかいあって、今では社員の9割がLINEに登録し、食事や運動、睡眠やメンタルヘルスなど、健康に関する幅広い情報を受け取っている。
「楽しくお得」な制度としては、2021年に開始した「趣味応援企画」もユニークだ。社員の趣味や挑戦したいことを金銭面でサポートするもので、趣味や挑戦への思いとお金の使い道をまとめた企画書を提出し、選ばれれば最大10万円を受け取れる。
年に3回、5〜6人に支援金を提供している。選ばれた社員の挑戦が後日社内報でレポートされることもあり、選考では共感が得られる企画かどうかが重視されるという。
「例えば『還暦を迎える前に日本で一番高いバンジージャンプに挑戦する』という企画で選ばれた社員がいます。それも『趣味だからやりたい』ということではなく、それができたらさらに勇気が出て他のことにも挑戦できそうです、というストーリーが共感を得られたのだと思います」(太氏)
鍋嶋氏は「仕事と人生を楽しむ」というテーマのもと、この企画を始めたのだと語る。
「以前は『仕事を楽しんでほしい。そのためにも健康でいてほしい』と考えていました。でも、人生が楽しくないと、仕事の活力も沸かないですよね。仕事もプライベートも充実させて、より良い人生を送ることを応援したいと思っています」(鍋嶋氏)
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