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AppleとOpenAIの提携は「何を」意味する? 「共通の敵」を前にした両社の思惑

» 2024年06月20日 08時30分 公開
[湯川鶴章、エクサウィザーズ AI新聞編集長]
ExaWizards

 Appleの開発者向け年次総会WWDCで、AppleとOpenAIの提携が発表された。この提携はどの程度の協力関係なのだろうか。今までもiPhone上にChatGPTのアプリはあった。それとどう違うのだろうか?

AppleとOpenAIの提携は何を意味するのか?(画像:ゲッティイメージズより)

 発表文を見てみよう。Apple側は「iPhone、iPad、Macの中核に強力な生成モデルを組み込んだパーソナルインテリジェンスシステム、Apple Intelligenceを紹介」という発表文の一番後ろに「ChatGPTがAppleプラットフォーム全体に統合」と提携について控えめに言及している。

 提携の内容としては、siriに質問すると、「ChatGPTを使用しますか」と聞き返してきて、ChatGPTを選択できるようになった、ということが一つ。もう一つは、iPhone上で文章入力する際にChatGPTの支援を受けることができる、というものだ。

 WWDCの基調講演の中でも提携への言及は控えめだった。

 「世の中には、便利な人工知能ツールがあります。ツール間を行き来することなくこのような外部モデルをみなさんに使っていただけるように私たちはユーザーのエクスペリエンスにこれを組み込みます。そして、最高のパートナーとスタートします。この分野のパイオニアとして市場をけん引するOpenAIのChatGPT、そしてGPT-4oです」。

 あくまでも、数あるパートナー企業の1社という位置付けで、OSに組み込むという表現ではなく、ユーザーのエクスペリエンスに組み込むという表現を使っている。

 一方のOpenAI側は、正式の発表文では「ChatGPTをAppleのOSのエクスペリエンスに統合」としてAppleの表現と合わせているものの、OpenAIの公式Xでは「ChatGPTをAppleのOSに統合する」と書いている。

 「エクスペリエンスへの統合」と「OSへの統合」ではニュアンスがかなり異なる。OSへの統合となると、Apple製品のソフトの根幹部分にOpenAIの技術が入り込むことになる。

 今回Appleは生成AIを生かした仕組みをいろいろと発表してきた。それらの仕組みにOpenAIの技術が組み込まれてはいないのだろうか。

 イーロン・マスク氏はAppleとOpenAIの提携を受けて、「Appleは自分たちのAIを作れるほど賢くない」とXでつぶやいている。

 その上で「OpenAIがユーザーのセキュリティとプライバシーを保護するから大丈夫と、Appleが保証できるわけがない」「AppleがOSレベルでOpenAIを統合した場合、私の会社ではAppleデバイスの使用を禁止する」「訪問者には入口でAppleデバイスを預けてもらう」と連続でつぶやいた。

 確かにマスク氏の言う通り、スマホ向けの生成AIのトップ企業はOpenAIとGoogleだ。Appleに、この2社と同等の技術があるとは思えない。

 Googleは、自社開発AIでAndroidスマホを大幅にバージョンアップしてくるのは間違いない。Appleに、自社の技術力の向上を待つ時間的余裕はない。OpenAIとしても自社の技術がAndroid端末に搭載されるわけはなく、Appleと是が非でも組みたいところだ。

 つまりGoogleという共通の敵を持つAppleとOpenAIがどっぷり組むことは、自然な流れといえる。

 ただ最近、米国ではOpenAIの評判が悪い。女優の音声データを無断で使用したであるとか、YouTube動画を勝手に学習したであるとか、AIの安全性を訴える社員をクビにしたであるとか。同社に批判的な報道が続いている。

 そんなOpenAIの技術をAppleのOSの根幹部分に取り入れるとなると、Apple製品のイメージが悪くならないだろうか。Appleにとっては、特にセキュリティ対策に関するイメージ悪化は避けたいところだ。

 そこでAppleは、今回の提携を控えめに表現したいのではないだろうか。

 今後この提携はユーザーにどう受け止められるのだろうか。セキュリティやプライバシーの観点からユーザーの反発をくらうのか。それともOpenAIの生成AIでiPhoneの使い勝手が大幅に向上し、ユーザーに喜ばれることになるのだろうか。

 今後の成り行きを見守りたい。

本記事はエクサウィザーズのAI新聞「AppleとOpenAIの提携は何を意味するのか」(2024年6月12日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

著者プロフィール

湯川鶴章

AIスタートアップのエクサウィザーズ AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。17年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(15年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(07年)、『ネットは新聞を殺すのか』(03年)などがある。


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