こうした世の中の変化に動かされるだけでなく、自分たちの仕事や働き方を徹底的に見つめながら独自のルールを作っていく会社もある。
大阪で天然エビの輸入と加工、販売を行うパプアニューギニア海産は、工場のパート社員が好きな日の好きな時間に働きにくる「フリースケジュール制」を11年前から運用する。
工場長の武藤北斗さんによれば、それ以前の工場はパート同士、そしてパート社員と工場長の間の信頼がなく、とてもギスギスした職場だった。それをなんとかしたいと考えた武藤さんはパート社員と面談を繰り返し、子育て中の女性が大多数を占めるパート社員にとっては「『どう働くか』よりも『どう休めるか』の方が重要」という事実に気付いた。それがフリースケジュール制のきっかけとなったという。
それまで、子どもの発熱などで行けなくなったと連絡をもらえば、急な欠勤を受け入れてきた。それならば、連絡なしで休んでもらっても結果は同じ。パート社員は時給で働いているのだから休んでばかりでは収入が得られないわけで、あらかじめシフトを組まなくても一定の出勤日数は保たれるはず、というのが武藤さんのもくろみだった。
そして、いかにストレスなく休めるかが重要なので、「いつ出勤するか、あるいは休むのか、事前に連絡することは一切禁止」というルールを作った。それが守られないと「事前連絡はいらないと言われているけれど、やっぱり連絡した方がいいのかな」という忖度(そんたく)が生まれ、結局は気まずい思いをしながら休む人が出てしまう。そうならないために、ルールを守らない人には厳重に注意したそうだ。
それ以来同社では、パート社員がストレスなく働けること、社員もしっかり休めることを目指し、常に試行錯誤を続けてきた。
その過程で、「無理に仲良くしない」「勤続年数や習熟度にかかわらず時給は統一」「忘年会、お土産なし」といったルールも生まれている。世間の常識にあらがうようなルールに見えるが、離職率はどんどん下がっているという(詳しくは、武藤さんがフリースケジュール制以降の試行錯誤をまとめた「11年後。無断欠勤がルールのエビ工場|武藤北斗/パプアニューギニア海産」を参照)。
昨今、多くの会社が「社員には自律的に、主体的に働いてほしい」と表明している。本当にそう考えるならば、自律的、主体的に動こうとする社員を邪魔するルールは取り除いていかなければいけない。
一方、なんでも自由にしすぎると、特に自律や主体性が必要ない場面でも、いちいち「私はどうすべきか?」と考えなければいけなくなる。余計な気遣いやストレスが生じ、それはそれで力を発揮しきれないだろう。パプアニューギニア海産の例は、ルールがあるから安心して効率的に動けるということもあるのだと教えてくれる。
ルールというとどうしても「上から押し付けられるもの」という不自由さを連想しがちだ。でも、より自由になるためにルールを作るという考え方もできるのだ。自分たちにとってちょうど良いルールを、都度自分たちで考えていくこと、それが本来のルールへの向き合い方なのではないかと思う。
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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