人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方を指す「人的資本経営」の重要性が高まっている。
しかし、中小企業の中にはまだまだ当事者意識を持てていない企業もあるようだ。特に、人的資本経営の基礎となる「働きやすさ」や「採用」に関して課題が残る。
調査によると、育児休業・介護休業の取得事例について、育休・介休ともに取得事例がない・規定がない中小企業が61.4%に上った(「社内規定はあるが、取得事例がない」(34.1%) 「育児休業・介護休業の社内規程がない」(27.3%)の合算)。
「スキルや能力、職務経歴に関係なく、多様な人材採用に努め、活躍できる環境を整えていますか?」という質問への回答からも中小企業の対応の遅れが見て取れる。
「多様な採用は行っておらず、活躍可能な環境も整えていない」(36.6%)、「多様な採用は行っているが、活躍可能な環境は整えていない」(14.3%)となり、50.9%の中小企業が活躍できる環境を整えられていない結果となった。
調査を実施したフォーバル GDXリサーチ研究所は「前回調査から、多くの中小企業が人材獲得に苦労していることが確認されました。そのような人員不足の背景から、育休・介休が取得しづらい環境であることが推察されます」とコメントしている。
中小企業は、人的資本経営を進めるにあたってどのような課題を抱えているのか? 上位に挙がったのは「時間がかかる」(35.8%)と「費用がかかる」(27.5%)の2項目だった。以降「社内にできる人材がいない」「分からない」「取り組み方が分からず、手探りの状態である」と続いた。
では、何があれば人的資本経営を推進できると考えているのか。最も多かった回答は「国や政府からの人的資本経営に向けた補助制度」(40.0%)だった。次いで「国や政府からの中小企業向けのガイドライン」(25.4%)、「中小企業の成功事例の共有」(24.8%)という結果に。
一方、人的資本経営に取り組んで効果を実感している企業も存在する。「人的資本経営を実施したことにより、貴社ではそれぞれの項目における効果はありましたか」という質問に対し、75.7%が「人材強化やモチベーションのアップ」に効果があったと回答(「十分に効果を実感している」と「やや効果を実感している」の合算)した。
割合は減るものの、「競合優位性の構築」「売上拡大」にも効果があったとしている企業も6割近く存在する。人的資本経営が浸透しているとは言えないが、取り組めている企業は経営に関する項目で一定の効果を感じていることが明らかになった。
フォーバル GDXリサーチ研究所は「人材強化・競合優位性・売上増加などの重要な項目で効果を感じられているため、人的資本経営は中小企業にとって取り組むべきものだと捉えられます。一方で、現状の人的資本経営の構築には時間的・資金的なコストがかかり、中小企業にとってはハードルが高いものとなっていることも推察されます。国や政府からの補助制度やガイドラインの策定などの必要性は今後ますます高まるでしょう」とコメントしている。
調査は、全国の中小企業経営者を対象にインターネットで実施した。期間は2023年12月11日〜2024年2月8日で、有効回答数は973人。
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