社長がスーツ姿でスキージャンプ、モンブラン登頂──独特のYouTube動画で自社製品の広報しているオーダースーツSADA(東京都千代田区)。10年前から始めた動画での発信は、代表取締役社長の佐田展隆氏が登山を中心としたアクティビティに、自社のスーツ姿で挑戦するというもので、中には再生回数が15万回を超えるものもある。
独自の発信も手伝って、業績が好調に推移していた同社だが、コロナ禍で売り上げは2割減。店舗も54店から45店に減らした。
こうした苦境を乗り切り、2024年7月期の決算はコロナ禍前を上回る売り上げ42億円を見込む。V字回復を手伝ったのが、「古い業界だから、紙DMで十分」としてきた販促方法を見直し、Webマーケティングに舵を切ったことだった。
創業100年を迎えた同社。新卒で東レに入社した佐田氏が、3代目社長である父に請われて経営に参画したのが2003年のこと。当時、売り上げのほとんどを占めるのが卸での販売だった。テーラーから注文を受け、CAM(自動設計システム)やCAD(自動裁断システム)を用いたマシンメイドのオーダースーツを納品する形だ。店舗での直販の道を切り開いてきたのが、4代目を継いだ佐田氏だった。現在では年間12万着を作り、その9割を自社店舗で直販している。
一時は佐田氏を含めた創業家が会社から数年単位で離れていたが、東日本大震災で仙台工場が被災したことをきっかけに、佐多氏に復帰を求める声がかかった。紆余曲折を経て、2011年の売り上げ17億円から9年連続増収を成し遂げた矢先のコロナ禍。そこからの3年は「辛抱の年だった」と、佐田氏は振り返る。
リモートワークの定着や服装の自由化などの潮流も関係してか、コロナ禍前のようにシーズンごとにオーダースーツを新調する顧客は少数派になった。公式LINEを活用して登録者約13万人に定期的な接点を作るなど、既存顧客へのリテンションも怠らなかったが、リピートの頻度が落ちたとなれば、新規顧客へのアプローチがより重要になる。
新規顧客にとって、オーダースーツはハードルが高い。これを下げようと従来、佐田氏が自社製のオーダースーツで登山などに挑戦し、その着心地をアピールする動画をYouTubeに投稿し、広報活動を展開してきた。これが話題を呼んで数々のテレビ番組を含むメディア出演につながり、売上増にもつながっていた。認知度を上げるのは広報、売り上げにつなげるにはDMなどリアルでの販促という手法を続けてきた。
認知度向上には「広報だけでいい」という認識を改めるきっかけになったのがコロナ禍だった。それまでの数年は出店続き、売り上げも右肩上がりの忙しない状況が続いていたが、立ち止まって自社の状況を見つめ直す時間が与えられた。すると、同社がメディア出演で知名度を付けてきた一方、競合他社は広告で新規顧客を獲得していることが判明。デジタルマーケティングに本腰を入れ、Web広告へのチャレンジを始めた。
広告施策のCVは全て、店舗への来店予約数に設定。最も効果が良かったのは「スーツが欲しい」もしくは「オーダースーツが欲しい」と考え、検索する人に対して表示するリスティング広告だ。試行錯誤の結果、CV当たりの経費は3分の1にまで圧縮できた。このほか、Web広告はバナー広告やSNS広告にも手を広げた。
難しいのは、オーダースーツに関心を持たない人に、いかにして興味を持たせるかだ。コロナ禍に入って2年目に、「さだ社長」チャンネルとは別に企業としてのYouTubeチャンネルを立ち上げた。スーツに一定の興味があったり、スーツを着用する習慣があったりする人を対象に、コントで笑いを交えながら着こなし指南を行う動画を投稿。約2年で11万フォロワーを獲得するなど、「企業チャンネルとしては大成功」(佐田氏)を収めている。
SEOの強化施策も、新規顧客へのアプローチを強めた。自社サイトのメディア化のトレンドを受け「質より量」を重視するのがセオリーだった時代に作った大量のコンテンツがあったが、これを整理。コンテンツを絞り込んだことで、公式Webサイトのセッション数はコロナ禍前と現在で比較すると10倍に伸びた。
マーケティング活動の基盤になりうるデータは、kintoneの導入で「管理や分析をしやすくなった」(佐田氏)。どんな属性の顧客がどれくらい来店しているのかといったデータは従来、十分に活用できているとは言いがたい状態だったという。今後は顧客の職業などのデータも加え、より多様なチャネルで広告を展開したいと意欲を見せる。
「オーダースーツを注文されるお客さまは、取引先からの印象を大事にされている。例えば不動産や資産運用、保険など高額な商品を扱う営業職の方が多い。GPSを使って、金融街にいるそうした方々に広告を表示するなど、効率的な施策はまだまだあると思っている。(既存顧客の比率が高かった従来は)ビルの4階などに出店していたが、最近は路面店や低層階への出店でも反響がある。知名度、信用度の向上が新規顧客の獲得につながったと考えている」(佐田氏)
2024年7月期は、コロナ禍前を上回る売り上げ42億円の着地を見込む。Webマーケティング施策を通じた新規顧客へのアプローチで、逆風を乗り切った同社。社長のスキージャンプのように、さらなる跳躍を見せるか。
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