CxO Insights

SDGs、2030年までに達成できる目標は「ゼロ」 日本が抱える課題は?「SDGsに関連する2024年版の報告書」が発表

» 2024年07月25日 08時30分 公開
[廣末智子サステナブル・ブランド ジャパン(SB-J)]
サステナブル・ブランド ジャパン

本記事はサステナブル・ブランド ジャパンの「世界のSDGs指数は停滞、食料と土地利用が課題に浮上――日本はやや改善、ランキング18位に」(2024年6月27日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。

 2030年までに世界レベルで達成できる目標は1つもなく、進捗しているのはSDGsのターゲットのわずか16%に過ぎない──。

 このほど発表されたSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)などの分析による世界166カ国のSDGsに関連する2024年版の報告書(PDF)で、世界のSDGsの取り組み指数が2020年以降、停滞していることが改めて分かった。

2024年の世界レベルでのSDGs17目標の進捗状況を示したダッシュボード。濃い赤は「主な課題」、オレンジは「重大な課題」を表している

 中でも目標2の「飢餓をゼロに」は、栄養の偏りの問題を含めて見た時にいずれの国連加盟国も達成しておらず、持続可能な食料と土地利用が世界共通の大きな課題として浮上している。日本は全体としてやや改善し、前年の21位から18位にランクが上がった。

SDGs、2030年までに達成できる目標は「ゼロ」 現状は?

 SDSNは、国連事務総長の後援のもと、世界的な科学技術の知見を結集し、2012年に設立されたネットワークだ。SDGsが発効された2016年以降、毎年、世界各国のSDGsの進捗状況を「サステナブル・ディベロップメント・レポート(持続可能な開発報告書)」としてまとめ、各国のスコアをランキング形式で発表している。

 2024年版の報告書によると、世界レベルでのSDGsの進捗は2020年以降停滞している。SDGsの17目標169ターゲットのうち、達成されているターゲットは16%に過ぎず、残りの84%は2030年にそれを達成するには不十分であるか、あるいは逆行している。

 これらを踏まえ、現状では「2015年にSDGsが採択されてからの進捗率に基づいて、2030年までに達成される目標はないことが推測される」という。

国連加盟国での「目標2:飢餓をゼロに」未達 原因は?

 17目標のうち特に進捗が遅れているのは、次の6つだ。

  • 目標2「飢餓をゼロに」
  • 目標3「すべての人に健康と福祉を」
  • 目標11「住み続けられるまちづくりを」
  • 目標14「海の豊かさを守ろう」
  • 目標15「陸の豊かさも守ろう」
  • 目標16「平和と公正をすべての人に」

 中でも目標2は、栄養不足に加え、栄養の偏りに起因する「肥満率」の高さなども課題に含まれているため、「国連加盟193カ国のうち、唯一どの国も達成していない目標」と今回の報告書内で指摘されている。

 また、この目標2に関して「2030年までに6億人が依然として飢餓に苦しむ一方で、肥満が世界に増加している。多くの国が栄養不足と過体重という相反する二重の課題に直面している」と問題視し、その原因を「持続可能でない農業と食生活の組み合わせが原因である」と強調。

 この問題を含め、特に進捗が遅れているターゲットの大半は「食料の安全保障システムと生物多様性の保全、持続可能な土地利用などに関するものである」ことから、これらを大きな課題と位置付けている。そして、2017年に設立された世界的な研究者ネットワーク「FABLE(FoodとAgriculture、Biodiversity、Land-Use、and Energyの頭文字をとったもの)コンソーシアム」による2030年と2050年に向けた新たなシナリオを提示した。

 それによると、以下などが挙げられている。

  • 食料安全保障の観点から、2030年以降、各国の栄養不足の蔓延(まんえん)率を5%未満に抑え、1人当たりの1日のエネルギー摂取量を10%以上増やすか、50%未満に減らすこと
  • 生物多様性の観点から、2030年までに全陸地の30%を保護地域とし、耕作地の50%を農業生態学的手法で管理すること、2030年以降、森林の減少をなくし、自然のプロセスが優勢な土地の損失を発生させないこと
  • 気候変動緩和の観点から2050年までに農業からのCO2排出量を4ギガトン未満とすること

国別の達成度、日本は総合で18位に上昇 課題は残る

 最新の国別達成度ランキングの1位はフィンランド(総合スコア86.4%)、2位はスウェーデン(85.7%)、3位はデンマーク(85.0%)で、例年通り10位までを欧州勢が占めた。

 地域では、東アジア・南アジアがSDGs達成に向けて最も進展をみせる一方で、小島嶼開発途上国(SIDS)を含む、最も貧しく脆弱(ぜいじゃく)な国々との格差は2015年以降ますます広がっている。

SDGs達成度ランキング2024(画像:SBJ作成)

 日本の総合スコアは前年比0.5%増の79.9%とやや改善し、21位から18位と、2021年の水準にまで順位を戻した。例年同様、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」と目標13「気候変動に具体的な対策を」、目標14と目標15に加え、目標12「つくる責任 つかう責任」が最大の課題とされている。

2024年の日本のSDGs17目標の進捗状況を示したダッシュボード。目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は唯一、「目標を達成」になっている

 詳細な評価項目で日本の大きな課題とされているのは、税金と給付後の貧困率、持続可能な窒素管理指数、国会における女性の議席数、男女賃金格差、最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合、家賃負担の重い人の数、電子廃棄物、プラスチック廃棄物の輸出量、化石燃料の燃焼とセメント生産によるCO2排出量、炭素価格スコア、海洋健康指数、乱獲などによる漁獲量、輸入に内在する海洋生物多様性への脅威、生物多様性の保全に重要な淡水域の平均保護面積、レッドリストに掲載されている種の存続、金融秘密だ。

報告書執筆者が指摘 喫緊の課題は?

 また報告書は「世界金融アーキテクチャの改革がかつてないほど緊急の課題となっている」と指摘。低・中所得国がSDGs目標の達成のために大規模な投資が行えるよう、世界的な課税を含む資金調達の新しい形態の必要性を例年以上に強調した。さらに「地球規模の課題には地球規模の協力が必要である」として、国連を基盤とする多国間主義への取り組みの強化を訴えている。

 この多国間主義への各国の取り組みについては、今回の報告書で初めてスコア化した。上位5位はバルバドス、アンティグア・バーブーダ、ウルグアイ、モーリシャス、モルディブと、カリブ海やインド洋の島々が大勢を占めた。これとは対照的に、米国(193位)、ソマリア(192位)、南スーダン(191位)、イスラエル(190位)、朝鮮民主主義人民共和国(189位)は最低ランクに位置している。

 報告書の主執筆者で、著書『貧困の終焉──2025年までに世界を変える』で知られる米コロンビア大学の経済学者ジェフリー・D・サックス氏は、今回の報告書の発表に際し、「世界は悲惨な環境危機、広がる不平等、破壊的で潜在的に危険な技術、致命的な紛争など、大きな地球規模の課題に直面し、私たちは岐路に立っている。国際社会は国連システムの重要な成果と限界を評価し、今後数十年に向けて多国間主義の向上に取り組まねばならない」と警鐘を鳴らしている。

著者紹介:Sustainable Brands Japan(SB-J)メディア・サイト

photo

経営戦略の大きな課題となっている「サステナビリティ」をテーマとした、日本のビジネスパーソン向けの情報サイトがSB-Jです。SB-Jは米国の姉妹サイトsustainablebrands.comと相互に連携することで、国内外のESG情報をニュースとして配信するとともに『ブランドが社会とつながる、持続可能な未来』の実現を目指した提言を様々な角度から発信しています。


© Hakuten Corporation All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR