変革の財務経理

「とにかく人手不足」の経理部でも、優秀人材を確保・育成する“4つのカギ”シン・経理組織への道(2/2 ページ)

» 2024年08月01日 07時00分 公開
[屋形俊哉ITmedia]
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経理人材の確保・育成に必要な要件

 人材を確保するために必要な要素として「働きやすさ」と「働きがい」があります。働きやすさとは、給与や勤務地、福利厚生のような就労条件や就業環境のことを指します。働きがいとは、仕事の内容ややりがい、キャリアに関することを指し、どちらも重要な要素です。

 これに関連し、日本CFO協会が2023年に実施したサーベイで、経理財務として働く組織を選ぶ上で何を重視するか、「条件・環境」と「スキルアップ・キャリアアップ」のそれぞれについて質問した結果が下のグラフです。

photo 日本CFO協会 サーベイ「経理部門のDX推進に向けた実態と課題2023」より

 まず「条件・環境」についての調査を見ると「給与水準」に続いて「リモートワークやフレックスタイムなど、働き方が柔軟」という回答が、「企業文化、社風」と並んで2番目に高い結果となっています。

 コロナ禍が落ち着きを見せ、従来の出社スタイルに回帰する動きもあります。人材の定着や獲得という点では、リモートか出社かの二者択一ではなく、ハイブリッドの勤務形態を取り入れるなどの柔軟な対応が、働く側から求められています。

 続いて人材の育成に大きく関わってくる「スキルアップ・キャリアアップ」についての調査結果では、個人のスキルを伸ばすための学習機会が最も重視され、その次に経理財務のスペシャリストとしての経験やスキルを生かす成長機会が求められていることが分かります。

photo 日本CFO協会 サーベイ「経理部門のDX推進に向けた実態と課題2023」より

 また「デジタル活用に積極的で、先進的な仕事の進め方を志向している」も34%と高い値となっており、プロジェクトを通じてDX関連のスキルやナレッジを習得できるという点で、DXの推進は経理人材の確保と育成においても有用といえます。残りの2つの回答もともに30%以上と決して低い数値ではなく、目指す方向性に違いはあっても成長機会が重視されていることに変わりありません。

経理人材の確保・育成にテクノロジーはどう貢献できるか

 前章で「経理人材の確保・育成」に重要な要素として「柔軟な働き方」「学習機会」「成長機会」「DXの推進」の4つを挙げました。では、この4つの要素に対してテクノロジーはどう貢献できるのでしょうか。企業の声や事例も交えてご紹介します。

  • 可視化と情報共有
  • マニュアルワークからの解放
  • 情報武装
  • 先進的なオペレーション

(1)可視化と情報共有〜柔軟な働き方、学習機会、DXの推進〜

 経理プロセスのデジタル化は各担当者の作業手順のほか、業務プロセスのつながりや全体の進捗を可視化し、業務に関連する情報を一元化できます。可視化や一元化、情報共有は、経理業務の標準化と統制強化を促進するだけでなく、担当者にさまざまな気付きを与えます。

 担当者の意識改革や責任感の醸成、標準化されたプロセスのさらなる改善の検討など、個人のスキルやナレッジの向上を促す効果もあります。リモートワークを円滑に実現する上でも欠かせません。

 とある企業で経理プロセスのデジタル化を推進した責任者は、現場の変化についてこう語っています(外部リンク)。

 「経理プロセスのデジタル化で証跡を含めた全ての資料が唯一無二の正の情報としてそこで管理されているため、迷いやストレスはありません。こうした“共通言語”ができたことで、各担当者は自分が今、何をなすべきかを常に意識するようになりました」

(2)マニュアルワークからの解放〜学習機会、成長機会〜

 経理業務に関連するテクノロジーを正しく活用することで、手作業を極小化し、業務に必要な情報へのアクセスを容易にできます。

 経理組織には新しいことに取り組む余力が生まれ、担当者は自己学習や外部交流など、キャリア形成や自社ビジネスへの理解を深める時間、より高度な業務にチャレンジする時間を確保できるように。管理者やリーダークラスの方であれば、チームのメンバーを育成する時間に充てることもできるでしょう。

(3)情報武装〜成長機会、DXの推進〜

 経理部門は数字をまとめるだけではなく、経営の意思決定の支援や事業部門の目標達成をサポートすることも重要な役割です。経営層や事業部門のトップ、リーダーたちと対峙し、ビジネスの最前線で貢献の手応えを感じることは経理の仕事の醍醐(だいご)味であり、その経験はキャリアアップに大きな影響を与えます。この際に重要な武器となるのが、会社の経営情報や財務状況などの数値情報です。

 経営の意思決定を支援するには、会計データ以外にも将来予測や市場の情報、世界情勢や経済動向に関する情報などの幅広い情報と分析が必要です。しかし、経理としての分析の起点となるのは財務数値です。

 実績値を正確に把握することは予算管理や業績予測の向上に必須ですし、タイムリーなインサイトを得るには実績に対する信頼が必要です。不確かな情報では、良い分析を行うことはできません。グループで経理プロセスと会計データの標準化を推進し、財務数値の信頼性を向上させることは、情報武装の土台を作り、仕事のやりがいと成長機会につながります。

(4)先進的なオペレーション〜柔軟な働き方、学習機会、成長機会、DXの推進〜

 テクノロジーを活用し、先進的なオペレーションやリモートワークなどの柔軟な働き方を実現している組織は、外部人材の獲得において優位であることは言うまでもありません。前述のCFO協会のサーベイで、働く組織を選ぶ上で「柔軟な働き方」を重視すると回答した割合は4割を超えていますが、リモートワークを定着させるためには可視化と情報共有が必須です。電子承認やワークフローなど、オペレーションのデジタル化も欠かせません。

 経理プロセスの可視化と情報共有を進め、柔軟な働き方を実現している企業からは「産休・育休の取得に向けて業務の整理がつけやすい。家族の負担も減らせそうだ」「税理士試験対策のために試験休暇を取ったときも、一時的な担当者変更を楽に行え、キャリア形成の時間が確保できた」など、各人の人材価値の向上という観点でテクノロジーを評価する声が聞かれます(外部リンク)。

 また、アドビ社がコロナ禍に入社した社員に対して行った2021年の調査(※2)では、

  • 「デジタル化は仕事のモチベーションに影響すると思う」が72.4%
  • テレワークやデジタル化が進んでいる企業ほど従業員満足度が高い傾向に

という結果が出ており、デジタル化を推進していること自体が、モチベーションの向上にプラスの影響を及ぼしていることがうかがえます。

最後に

 経理部門にとって人材の確保と育成は喫緊の課題です。この課題を解決するために、学習機会と成長機会を提供し、情報武装を積極的に支援することは企業の責務であり、企業価値の持続的な向上を実現するために必要不可欠な投資です。

 テクノロジーが全てを解決するわけではありませんが、従来の延長線上にあるような対症療法ではない思い切ったテクノロジーの活用なしには、この課題を解決することは困難に思われます。

 人的資本経営という言葉が注目されて久しいですが、人材の価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる“人的資本経営の実践”が、今こそ経理の現場で求められているのではないでしょうか。

次回以降のテーマはこちら!

  • 第3回 ERPの周辺に残るマニュアルワークの最小化
  • 第4回 AIなど最新テクノロジーの活用
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