変革の財務経理

「とにかく人手不足」の経理部でも、優秀人材を確保・育成する“4つのカギ”シン・経理組織への道(1/2 ページ)

» 2024年08月01日 07時00分 公開
[屋形俊哉ITmedia]

 前回の記事で、経理組織の現場が抱える深刻な課題として「従来機能の複雑化と負荷増大」「経理人材の流動化」「ERPの周辺に残る多くの手作業」の3つを挙げました。こうした現場の課題を解決し、さらなる高みを目指すための基盤づくりとして「人材の確保・育成」「マニュアルワーク最小化」「デジタル化推進」が重要です。

前回の記事はコチラ

 本記事では、その3つの施策の中で現在取り組んでいるテーマとして挙げた企業が最も多かった「経理人材の確保・育成」について解説します。

今「経理人材の確保・育成」が最も重要な理由

 経理部門において「人材の確保・育成」が喫緊の課題となっている理由として、経理部門に対する期待の高まりと経理人材の流動化の2つがあります。そして「企業におけるAIの浸透」も、今後「人材の確保・育成」に大きく関わってくることが予想されます。

 前回記事の冒頭で経理組織に対する期待が高まっているとお伝えしましたが、経理機能の高度化として、大きく2つの期待があります。

(1)より早く、より正確に

 予想もされなかったような変化が起こる世界では、企業には変化に迅速に対応する機敏性(アジリティ)が要求されます。経営者が市場のニーズや変化をいち早く捉え、迅速に意思決定を行うために、経理組織はより早く、より正確な経営情報を経営層に届けることが求められています。

(2)情報提供者からビジネスパートナーへ

 従来、経理に要求されてきたのは、会社の経営数値や財務状況を分析し改善策を提示する“情報提供者”の役割でした。現代はこれにとどまらず、会計の専門知識やビジネス全体を俯瞰(ふかん)し多面的に分析するスキルを生かして、経営の意思決定に参画する、いわゆる“ビジネスパートナー”の役割が期待されるようになっています。

 例えば、事業ポートフォリオや投資判断などの中長期的な経営戦略や事業戦略の立案・実行に対して能動的に発信することが求められています。

 この2つの経理機能の高度化に対応するためには、アカウンティングの知識に加え、ファイナンスの知識、そして自社のビジネスや資本市場に対する理解と洞察力を備えた人材が、リードする必要があります。

 データをタイムリーに把握するプロセスやシステムを最適化するスキルや、膨大なデータからビジネスに影響を及ぼす重要な変化を捉えるスキルなど、自社のビジネスとテクノロジーの両面での知識や、現場とのコミュニケーション力も求められます。

photo ただでさえ人手不足な状況下でも、経理人材の役割が高度化させていくには(提供:ゲッティイメージズ)

経理人材の流動化

 今、経理の現場では、若い世代だけでなく中堅クラスにおいても人材の流動化が始まってます。日本CFO協会のサーベイ「経理部門のDX推進に向けた実態と課題2024」でもその傾向は顕著です。

 2024年の調査結果では、経理人材の流動性が高まっていると回答した割合は約63%、若手だけでなく中間層でも高まっていると回答した割合は約41%と、共に高い割合を示しています。

 人材の流動化が経理の現場に与える影響は深刻です。リーマショック以降、多くの企業で経理部門がスリム化し、職人化と属人化が進みました。人材の流出は組織のスキルや知識の継承を困難にするだけでなく、現場の負荷増大によるエンゲージメントの低下を招き、経理機能の低下によるミスや不正のリスクを高める恐れすらあります。

AIの浸透

 「AIによって将来なくなる仕事 ランキング」でWeb検索すると、多くの記事で経理は5位以内に入っています。経理業務には「機械化しやすい」「ルーティンワーク」といったAIやマシンラーニングになじみやすい処理が多く、今後、AIを本格的に導入する企業が増えるにつれて、経理部門に対する人員削減のプレッシャーが強くなることが危惧されます。

 一方で、AIの活用領域の拡大により、AI活用の巧拙が企業競争力に及ぼす影響は大きくなることが予想され、AIを使いこなす経理人材のニーズも高くなるに違いありません(この点については、AIなどの最新テクノロジーの活用について解説する本連載の第4回で取り上げます)。

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