「ファストフードを食べ過ぎてしまった」「最近野菜を摂れていない」――誰しも身に覚えのありそうな”食生活の乱れ”に対して、AIがトータルで「ツジツマ」を合わせた献立を提案するWebサービスを、味の素が提供している。リリースからすでに4カ月経つが、同社R&B企画部マネージャーの勝美由香氏は「目標を大幅に上回るユーザー数を獲得できている」と手応えを話す。ニーズが千差万別な「献立作り」にAIを取り入れるにあたって、同社は何を重視したのだろうか。
3月25日に味の素がリリースした「未来献立。」は、ユーザーに対し、最大で8日分の献立を提案するWebサービスだ。事前のID登録により無料で利用可能で、「野菜を多く摂りたい」「塩分を控えめにしたい」「○分以内で調理したい」といった、個々の事情に合わせた献立をユーザーに提案できる点が特徴となっている。
同社はこれまでも、レシピサイト「AJINOMOTO PARK(味の素パーク)」を提供してきた。しかし同サイトの展開においては、「レシピを1つ検索して、離脱してしまう」といったケースも多く、消費者との接点を拾いきれていないという課題があったという。
そこで同社は、個人のニーズを反映した献立を作成するサービスの提供を開始。料理をする人が悩みがちな「献立全体を考えるプロセス」のサポートを強化することで、レシピから1歩踏み込む形で、消費者とのつながりを深化させたい考えだ。勝美氏は、「必ずしも購買につなげるような設計にはしていませんが、そこまでできればうれしい」と話す。
構想の検討からPoC、システム実装までを担ったのが、企業向けにAIソリューションの開発事業を展開するLaboro.AI(東京都中央区)。味の素が蓄積してきた、1万種類を超えるレシピのデータベースを生かし「献立作成エンジン」を共同開発した。
両社が開発にあたって重視したのは、「食を楽しむ」という、いわば定性的な価値をシステムに組み込むことだったという。このため、「見た目の彩り」「品数のバランス」といった要素も言語化しながら、改善やチューニングを実施した。
Laboro.AI シニアソリューションデザイナーの広瀬圭太郎氏は、「『いい献立とは何か』というのは言語化が難しい。両社で『こんな条件を付与したらどうか』といった議論を進めながら、システムの品質向上に取り組みました」と話す。
特筆すべき機能は、外食などによる栄養バランスの偏りに合わせて献立を提案する「ツジツマあわせ」だ。前日の食事として、「野菜が少なめの食事」「肉や魚が少なめの食事」「脂っこい食事」「味付けの濃い食事」のうち当てはまるものを選択することで、バランスを補える食事メニューが出力される。「減塩でもおいしい食事」のような多様なニーズに対応してきた、味の素のレシピデータベースの蓄積を生かした。
「栄養学的に『こういう栄養を摂ればいい』といった単純なものにはしたくなかった。普通に毎日食事をしていれば食べすぎてしまう日もありますし、栄養バランスが崩れることは日常茶飯事。定性的な部分も実装することで、当社らしいデジタルサービスができるのではないかと考えました」(勝美氏)
味の素はこれを、BtoB向けの商品としても展開する構えだ。2023年11月には、明治安田生命保険が提供する「MYほけんアプリ」内の新機能として、献立作成エンジンのAPIの提供を開始した。
「MYほけんアプリ」は、歩数・睡眠・体型の記録などを通じてユーザーの健康増進をサポートするアプリ。献立作成エンジンの導入によって、ユーザーごとにパーソナライズした献立を提案する機能が追加された。こうしたデジタルサービスの外販は、同社にとって初の試みだ。両社は今後も、さまざまな業種の企業に同サービスを提供していきたいとしている。
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